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2017年7月16日日曜日

09 フロリンダ・ドナー「シャボノ」 -- アマゾンの奥地・ヤノマミ族の暮らし


カルロス・カスタネダの呪術師仲間、フロリンダ・ドナーが描くアマゾン奥地のシャーマニズムの世界、「シャボノ」の翻訳、第9回めを公開します。
NHKの番組から劇場公開された「ヤノマミ~奥アマゾン-原初の森に生きる~-劇場版」でも描かれる、嬰児殺しの風習をもつヤノマミ族の物語です。

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フロリンダ・ドナー「シャボノ」那賀乃とし兵衛訳、第9回
Frolinda Donner "Shabono" 1982 a Laurel Book
[今回は、四百字詰め原稿用紙40枚ほどの分量です]

☆この作品の簡単な紹介はこちらにあります。
[本の紹介: フロリンダ・ドナー「シャボノ」]

☆第1回〜第8回はこちらです。
[第1回] | [第2回] | [第3回] | [第4回] | [第5回] | [第6回] | [第7回] | [第8回]

[この試訳は編集中のものですが、ネット上で公開することにより、多くの方からのご意見をいただけたらと考え、こちらに置くことにします]

アマゾンの森の奥地で原初の生活をする先住民族ヤノマミの人たちの、日々の平和な暮らしの様子を、どうぞ、お楽しみください。

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第3部
**099**

第9章

作物を植え、種をまくことは基本的に男の仕事だったが、夫や父、兄弟が畑に朝行くときには、ほとんどの女たちが行動をともにした。ただ付いていくだけではなく、草取りを手伝い、新しく木が倒されれば薪を集めるのは女たちの仕事だった。
私は、数週間の間、エテワ、リティミ、トゥテミと一緒に彼らの畑に行った。草取りは時間もかかり大変な仕事だったが、全てが徒労にしか思えなかった。見る限り一向に効果がなかったからである。日射しと雨は、あらゆる植物の成長を別けへだてなく助け、人間の好みなど気にしてくれないのだ。
全ての家族は自分たちの畑の区画を持っており、区画は切り倒した木の幹で仕切られていた。エテワの畑はアラスウェの畑の隣である。アラスウェの畑はイティコテリの人々の中で一番大きなものだった。なにしろ祭りのとき客をもてなす食べ物はすべて首長の畑から提供されるのだ。
初めのうち私に区別がついたのは、プランテンと、数種類のバナナ、そして畑のあちこちに植えてある様々な種類の椰子くらいのものだった。椰子の木はその実を取るために育てられており、一本一本がそれを植えた者の持ち物となっていた。**100**絡み合う雑草の間に、マニオクやさつまいもなどの根菜類、様々なひょうたん、綿やタバコや魔法の植物が植えられているのを見つけては私は驚いたものだ。また、ピンクの花を咲かせ、赤い実をつける木が、畑にもシャボノの周りにも生やしてあるが、オノトのペーストはこの木から作られるのだった。
棘のついた赤いさやが房になっているのを切り落とし、殻を剥き、明るい真紅の色をした種を、それを取り巻く柔らかい実の部分と一緒に大きなひょうたんに入れ、水に浸す。それをかき混ぜ、砕いたあと、午後いっぱいかけてオノトは煮込まれる。一晩冷やしたあとで、半ば固まった塊を、穴を開けたバナナの葉を何枚か重ねたもので包み、小屋の垂木に結んで乾かす。数日後、赤いペーストは小さなひょうたんに移し替えられ、あとは使うのを待つばかりとなる。
エテワの畑の中には、リティミ、トゥテミ、エテワのそれぞれが自分用のタバコと魔法の植物を植える区画があった。タバコを植える区画は、他のみんなもそうだが、盗みに来るものから守るため、棒と鋭く尖らせた骨で囲んであった。タバコを勝手に取ることは許されなかった。そんなことがあれば揉めごとにつながった。リティミは魔法の植物のいくつかを私に教えてくれた。催淫効果のあるものや、身を守るためのものがあり、相手を攻撃するためのものもあった。エテワは自分の魔法の植物について話すことをせず、リティミもトゥテミもそれについては知らないふりをした。
一度エテワが球根を掘り出すのを見かけたことがある。次の日、狩りに出かける前に、エテワはその球根を潰したものを足に塗り込んでいた。その日の夕食はアルマジロの肉だった。「強力な植物ね」私は言った。エテワは戸惑った様子でしばらく私の顔を見つめ、それからにやりと笑うと答えた。「アドマの根は蛇に咬まれるのを防いでくれるんだ」
また別のときのことだが、私は畑でちびのシシウェと座り、食べられる蟻についてシシウェが詳しく説明してくれるのを聞いていた。**101**すると、シシウェの父であるエテワが、別の植物の根を掘り出すところを見かけた。エテワは根を潰すと、その汁をオノトと混ぜて自分の全身に塗りこんだ。「お父さんはペッカリを見つけるはずだよ」シシウェが囁いた。「獣ごとに魔法の植物があるんだ」
「猿にもあるの?」私は聞いた。
「猿には恐がらせるための叫びがあるんだ」シシウェは秘密を明かすように言った。「そうして猿が麻痺して逃げられなくなったところを、矢でしとめるのさ」
ある朝、私はリティミの姿を見かけたのだが、ちょうど私の体は、ひょうたんのつると雑草が絡まり合ったやぶの陰に隠れた状態だった。マニオクの、木質の枝と尖った葉、そして釣り鐘型の白い花の房の後ろに立っている、彼女の頭だけが見えた。彼女はひとり言を言っているようだった。何を言っているかは聞こえなかったが、唇は休みなく動いており、呪文でも唱えているかのようだった。タバコの草が速く育つように呪文をかけているのだろうか、それとも、隣のエテワのところからタバコの葉を少し拝借しようとしているのだろうかと私は考えた。
誰にも気づかれないように、リティミはゆっくりと自分のタバコの区画の真ん中へと戻っていった。枝と葉を折って取る様子には、明らかに急いでいることが見て取れた。辺りを見回してから、取った枝と葉をかごに入れると、バナナの葉でその上を覆った。笑いながら彼女は立ち上がり、少し迷ってから私の方に向かって歩き出した。
彼女の影が私の上に落ちるのを感じて、私は驚いたふりをして上を見上げた。
リティミはかごを地面に置くと、私の隣に座った。私は好奇心で一杯だったが、彼女が何をしていたのかと聞いても無駄なことも分かっていた。
「かごの中の束には触らないでね」少しすると、抑えることができずに笑いながら彼女は言った。「あなたが見てたのは知ってるの」
自分の顔が赤くなるのを感じながら、私は笑みを浮かべた。「エテワのタバコを少しもらったの?」
**102**「まさか」怖がるふりをして彼女は言った。「エテワは自分のタバコの葉っぱは全部知ってるんだから、一枚でもなくなったらすぐ気がつくわ」
「エテワの畑にいたように見えたから」私は何気なく言った。
かごの中のバナナの葉を持ち上げると、リティミは言った。「自分の畑にいたわよ。見て、オコ・シキの枝を少し取ってきたの。魔法の植物よ」彼女は囁いた。「これで強力な煎じ薬を作るの」
「誰かの治療でもするの?」
「治療ですって? 治療はシャポリしかできないのも知らないの?」頭を少し片方にかしげ、少し考えてから彼女は言葉を続けた。「祭りのときにエテワをたぶらかした女に呪文をかけてやるのよ」そう言って彼女は、にやりと笑った。
「エテワ用にも薬を用意したほうがいいんじゃない?」彼女の顔を見て、その表情の変りように私は驚いた。唇を真一文字に結び、目を細くして私をきっと睨んでいる。「だって、その女性もそうだけど、エテワも悪いんじゃないの?」彼女の問い詰めるような硬い表情に気まずさを感じて、私は言い訳でもするようにもごもごと言った。
「あの女がどんなに恥知らずにエテワをたぶらかしたか、見てなかったの?」リティミは憤慨して言った。「客として来た女たちが、どんなに破廉恥な振る舞いをしていたか、見てなかったとでも言いいたいの?」リティミは、滑稽と言ってもいいような大きなため息をつき、がっかりした様子を隠しようもなく言葉を足した。「あなたって時々、信じがたいほどのおばかさんになるのね」
私には何と言っていいのか、分からなかった。エテワがその女性と同罪であることは私には当然に思えた。少しは状況がよくなるかと思い、私は微笑んだ。初めて私が、エテワの浮気の現場に出くわしたのはまったくの偶然だった。私は、他のみんなと同じように、毎朝空が白む頃に小屋を出て用を足した。みんなが大便をするのに使っている場所よりももう少し森の奥まで、いつも私は行っていた。ある朝、私はかすかな呻き声を聞いてはっとした。怪我をした獣だろうと思い、出来る限り静かにその音の方へと這っていった。するとまったく驚いたことに、私の目に入ったのはイラマモウェの一番若い妻の上にエテワが乗っている姿だった。**103**エテワは私の顔を見ると、ばつが悪そうな笑みを浮かべたが、女の上で体は動かし続けていた。
その日しばらくして、エテワが森で見つけた蜂蜜を少し分けてくれた。蜂蜜は珍しいごちそうで、他の食べ物とは違い、気軽に人に分けるようなものではなかった。実のところ蜂蜜は大抵の場合みつけたところで食べてしまうのが普通だった。私は、口止め料を貰ったのだなと思いながら、エテワに感謝してそれを頂いた。
私にとって砂糖はいつも欲しくてたまらないものだった。イティコテリの人々がしているように蜂蜜を、蜂の巣や蜂、蜂の子、蛹や花粉と一緒に食べることにはもう慣れていた。エテワが蜂蜜を持って村に帰ってきたときにはいつも、私は彼の隣に座り、滴る蜂蜜の中に様々な変態の段階にある蜂たちが散りばめられているのを物欲しそうに見ながら、彼がいくらか分けてくれるのを待った。欲しいものを眼差しで要求したり、はっきり口にしてそれを手に入れることが正しい振る舞いであると、ようやく私が理解したのだと彼が思っているとは、私には思いもよらないことだった。彼の浮気を私が知っていることを思い出してもらいたくて、あるとき私は訊ねてみたことがある。浮気相手の夫が怒って、また頭を打ちに来るかもしれないのに恐くはないのかと。
エテワは全く驚いたといった様子で私を見た。「きみは全然分かってないんだな。でなくちゃ、そんなことを聞くはずがない」冷たい調子でそう言い、少しばかにしたような面持ちで、少年の集団の方に視線を転じた。少年たちは、もともとは矢じりだった竹のかけらを熱心に研いでいた。
似たような状況でエテワに出くわすことが何回かあり、いつも偶然というわけでもなかった。じきに分ったのは、夜明けは用を足すためだけの時間というわけではなく、安心して婚外活動に励むための時間でもあったということである。誰と誰が密通しているのかに私は深く関心を持った。前の晩のうちに合図を出し合い、カップルたちはあくる夜明けにはやぶの中に消えていくのだった。
**104**数時間後、何事もなかったかのように、カップルは別々の道を通って戻ってくるのだが、たいてい木の実か果物、蜂蜜などを手にしている。焚き木を抱えていることもあるほどだ。自分の女がしていることに気づいたときの夫の反応は、暴力的な場合もある。イラマモウェがしているのを見たことがあるように、女を殴ったり、殴るだけでは足りなくて、相手の男に棍棒を突きつける者もいる。他の者まで加わり大きな喧嘩になることもまれではなかった。
「なんで笑ってるのよ?」リティミの言葉で私の回想は遮られた。
「あなたの言った通りだからよ」私は言った。「私って時々、信じがたいほどのおばかさんになるもんね」エテワがしていることをリティミはすべて知っているのだということが、不意に分かった。多分シャボノの誰もが、何が起きているかについて知ってているのだ。最初のときエテワが私に蜂蜜をくれたのは、単なる偶然だったに違いない。疑いの目でもってそのことを考えていたものだから、自分が彼の共犯者だと思い込んでしまっただけなのだ。
リティミは私の首に両腕を巻きつけ、頬に何度も大きな音を立てながらキスをしてくれ、あなたはばかなんかじゃない、ただあまりに物を知らないだけなんだと、受け合ってくれた。エテワが誰と関係を持っているかが分かっている限り、彼の浮気についてそれほど気になるわけではないのだ、とリティミは説明してくれた。もちろん嬉しいことではないけれど、シャボノの中の話であれば、何とかなるという思いがリティミにはあった。エテワが別の村から三人目の妻を娶るのでないかと考えると、彼女は気が滅入るのだった。
「どうやってあの女に魔法をかけるの?」私は聞いた。「自分で煎じ薬を作るの?」
リティミは立ち上がると満足気に微笑んだ。「今それを言ったら魔法は効かなくなっちゃうわ」目に面白がるような色を浮かべ、言葉を切った。「魔法がうまくかかったら教えてあげる。ひょっとしてあなただって、いつか魔法のかけ方を知る必要が出てくるかもしれないし」
「その女を殺しちゃうの?」
「まさか。そんな度胸はないわ」彼女は言った。「あの女、流産するまで背中が痛むことになるのよ」**105**リティミは肩にかごをかけると、自分のタバコの畑の近くに残っている何本かの木のうちの一本に向かって歩き出した。「来て。川で水浴びをする前に少し休みましょう」
私は少し立ち止まって、疲れた足の筋肉を休めてから、彼女のあとを追った。リティミは地面に腰を下ろし、大きな木の幹に背をもたれさせていた。木は私たちと太陽の間に手のひらを広げるかのように葉を広げ、涼し気な木陰を作っていた。地面は落ち葉で覆われて柔らかい。私は頭をリティミのももに乗せて空を見上げた。とても青く、青白いと言ってもいいほどで、透き通るような色の空だった。風が私たちの後ろの籐の茂みをそよがせた。遅い朝の静けさの邪魔をするのは気が進まない、とでもいうような穏やかな風だった。
「こぶはもう直ったわね」リティミは私の髪の中、指を走らせて言った。「それに足の傷もすっかり消えた」からかうように言葉を足した。
まどろみながら私はうなずいた。大したこともない傷がもとで病気になるのではないかと心配する私を、前から彼女は笑っていたのだ。プリワリウェが安全な場所まで引っ張っていってくれたということ自体が、私が良くなることの証なのだと、彼女は受け合ってくれていた。それでも私は足の切り傷から感染することが心配で、彼女に毎日沸かしたお湯で洗ってくれるように頼んだのだった。ハヤマのお婆は更に予防として、自然の感染防止薬だという蟻の巣を焼いた粉を傷に刷り込んでくれた。刺激のあるその粉は、特に悪い影響もなく、傷はじきに直った。
目の前に広がる畑の風通しのよい広い空間を、半分閉じた目で私は眺めていた。畑の端の方から聞こえてくる叫び声に驚いて、私は目を開けた。バナナの葉の陰からイラマモウェが突然現れ、空へと続く道を行くかのように見えた。ラシャ椰子のとげの生えた幹を登っていく彼の動きを、私は呪文にかけられたかのように見守った。とげで怪我をしないように、二本の棒を交差させて結んだものを二組持ち、一組ずつ交互に幹の上に置きながら、彼は椰子の木を登っていた。**106**手慣れた様子で、一つの動きから次の動きへと滑らかに移っていく。交差させた棒の一組から一組へと立つ位置を変えては、もう一方の組を更に高い場所へと置き直し、やがてラシャの黄色い実が房になっているところまで辿り着いた。地面から六十フィートはあるに違いない。少しの間イラマモウェは、空を背景に銀色の弧を描く椰子の葉の陰に隠れた。実を切って取り、長いつるで巻いて重たい束にまとめると、それを地面に落とした。そしてゆっくりと地面へ向かって降り始め、緑のバナナの葉の間に姿を消した。
「私、茹でたラシャの実、好きだな、味があれの味に似てて……」そこまで言って私は、イティコテリの言葉でじゃがいもを何と言うのか知らないことに気がついた。私は体を起こした。リティミは頭を横に倒し、口を少し開いてすやすやと眠っていた。「水浴びに行こうよ」そう言って私は、草の葉で彼女の鼻をくすぐった。
リティミは私を見た。夢から覚めたばかりで自分がどこにいるか分らないといった顔をしていた。ゆっくりと立ち上がり、猫のようにあくびと伸びをした。「うん、行こう」そう言って、背中にかごを結んだ。「水を浴びて夢を洗い流すわ」
「悪い夢でも見たの?」
深刻そうな顔で私を見ると、彼女は前髪を掻きあげた。「山の中に一人で、あなたがいたの」夢の内容を思い出そうと努力しているかのように、彼女はぼんやりと言った。「あなたは怖がってはいなかったけど、泣いてたわ」彼女はじっと私を見つめ、そしてつけ加えた。「そしたらあなたに起こされたってわけ」
私たちが川へ向かって道を歩き出したところへ、エテワが後ろから走ってやってきた。「ピシャアンシの葉を取ってきてくれ」彼はリティミに言った。そして私の方を向いて言った。「きみはぼくと一緒に来るんだ」
私は森の中の新しく開かれた場所を彼のあとについて歩いた。切り倒した木々の木っ端の間に新しいプランテンの株が植えてあり、刈り込まれた葉がさや状に地面の上に顔を出していた。。十フィートから十二フィートほどの間隔が開けてあり、大きくなったときに葉が重なりはするが、互いに陰にならない程度になっている。**107**エテワ、イラマモウェなど、首長のアラスウェに近い血縁の者たちが手伝って、大きなプランテンの親株から株分けしたのは、ほんの数日前のことだ。木のつると厚い葉で作ったかごに背負いひもをつけて、重い株をいくつもこの新しい場所まで運んできたのである。
「蜂蜜でも見つけたの?」私は期待して聞いた。
「蜂蜜じゃないよ」エテワは言った。「だけど、同じくらいおいしいやつさ」アラスウェとその大きい方の息子二人が立っている方を、彼は指さした。バナナの老木を代わる代わる足で蹴っている。緑の葉が幾層にも重なった幹の間から、何百匹もの白っぽい幼虫がこぼれ落ちてきていた。
リティミがピシャアンシの葉を持ってくるとすぐに、少年たちはうごめく虫を拾って、その丈夫で大きな葉の上に乗せた。アラスウェは小さな火を起こした。息子の一人が楕円形の木片を地面に足でしっかり固定すると、アラスウェは手のひらで挟んだ錐を目を見張る速さで回転させた。白蟻の巣の上に乾いた小枝と棒が乗せておき、発火した木の粉でその巣に火をつけるのだ。
リティミはピシャアンシの葉が黒くこげ、ぱりぱりになる程度に軽く火にかざして幼虫を焼いた。エテワは焼けた包みを一つ開くと、人差指を唾で濡らし、その周りに火の通った幼虫をつけると、私に差し出した。「おいしいぞ」そう言って彼は勧めたが、私は顔を背けた。彼は肩をすくめ、自分の指をきれいに舐めた。
リティミは口いっぱいに頬張りながら、私に食べるようにうながした。「まだ食べてもないのに、どうして嫌いだなんていうのよ?」
私は灰色っぽく、まだ柔らかい幼虫の一匹を、親指と人差指でつまんで口に入れた。エスカルゴや火を通した牡蠣と同じようなものだと自分に言い聞かせたが、いざ飲み込もうとすると、舌にへばりついて飲み込むことができなかった。一旦口の中から出し、唾が十分に溜まるのを待ってから、薬でも飲むように一飲みにした。**108**「朝はプランテンしか食べれないのよ」エテワが虫の包みを私の方に差し出すので、私はそう言った。
「畑で働いてたんだろ?」彼は言った。「だったら食べなくちゃ。肉がないときにはこいつを食うに限るよ」そして、今まで何度も彼が取ってきた蟻やムカデを喜んで食べていたじゃないかと、彼は私に言った。
期待して見ている彼の顔を見ると、ムカデは小さく切って揚げた野菜と味こそ似ていたものの、どちらもこれっぽっちも好きではないのだということを、わざわざ彼に言う気にはならなかった。気は進まなかったが仕方なく、もう何匹か焼いた幼虫を無理矢理飲み込んだ。

リティミと私は男たちのあとについて川へ向かった。子どもたちが川の中で水を掛け合いながら、深い水溜りに落ちて溺れてしまった獏の歌を歌っていた。男たちと女たちは葉っぱで互いの体をこすり合った。彼らの体は太陽の光で、黄金色になめらかに輝いている。真っ直ぐな髪から滴り落ちる水の滴が光を反射して、ダイアモンドの首飾りのようにきらめいた。
ハヤマのお婆が私を手招きし、川の縁にある大きく滑らかな岩の上、自分の隣に座らせた。リティミの祖母であるこの人が、特別に私の面倒を見ることになったのだと私は思っていた。そして、私を太らせることが彼女の課題なのだった。シャボノの子どもたちが、よく食べることで、丈夫に健康に育てられるのと同様に、ハヤマのお婆は、一日中食べ物が絶えることがないようにと、私のために気を使ってくれるのだった。私が砂糖が欲しくてどうしようもないのを知って、彼女は大いに私を甘やかし、その気持ちを満たしてくれた。刺すことのない蜂が集める、濃くて甘い、色の薄い蜂蜜があり、子どもたちにはこの蜂蜜しか与えられないのだが、それを誰かが見つけたときには、私が少なくとも味見はできるように、ハヤマのお婆が取り計らってくれた。人を刺す黒い蜂の蜂蜜を誰かがシャボノに持ち帰ったときにも、やはりハヤマが私のために少しの量を確保してくれた。この蜜は、子どもに与えると吐き気を起こし、死に至ることもあるとイティコテリの人たちは信じており、大人しか食べられないものだ。**109**私が両方の種類を食べても特に問題はないのだと、イティコテリの人たちは考えていた。彼らにとって私は、大人とも子どもとも決めかねる存在だったからだ。
「ほら、お食べ」ハヤマのお婆はそう言って、ソパアの実をいくつか差し出した。緑がかった黄色をしており、レモンほどの大きさの実だ。私は石を使ってその実を割った。というのは、イティコテリの人たちの真似をして歯で木の実や果物を割ろうとして、歯が欠けてしまったことがあったからだ。白くて甘い果肉をすすり、茶色い種は吐き出した。粘つく果汁が指と手にへばりついた。
ちびのテショマが私の背中に上り、昼も夜も連れて歩いている小さなオマキザルを私の頭の上に乗っけた。猿が長い尻尾を、私の首に強く巻きつけ、息が苦しいほどだった。猿は毛むくじゃらの手の一方で私の髪につかまり、もう一方の手を私の顔の前に伸ばして、私が持っている実を取ろうと懸命だった。猿の毛やシラミが一緒に口に入るのは嫌だったので、私は体を振ってテショマと猿を落とそうとした。けれど、テショマも猿も、私が遊んでくれているものと思って、喜びの声を上げるだけだった。私は足を水の中に下ろし、Tシャツを頭の上にめくった。不意をつかれ、テショマと猿は私の体から飛び降りた。
子どもたちが私を砂の上に引っ張って倒し、私の横で転げ回った。くすくす笑いをしながら、一人ずつ順番に私の背中の上を歩いた。疲れて痛む筋肉の上を、子どもたちの小さくて冷たい足が踏んで歩くのは、とても気持ちがよかった。長い時間、畑で草取りをしたあと、肩、首、背中をマッサージしてくれるよう女たちに頼んでみたことがあるが、それは無駄だった。とても気持ちがよいのだと実際に何度かやってみせたが、女たちは、触ってもらうのは気持ちがよいけれど、マッサージはシャポリしかせず、病人や呪文をかけられた人間に対してするだけだと言うのだった。幸い、私が自分の背中の上を子どもたちに歩かせても、イティコテリの人たちは何も言わなかった。そんな野蛮な行ないが気持ちいいなどということは、彼らにはとても考えられないことだったのだ。
**110** トゥテミが砂の上、私の隣に座って、リティミに貰ったピシャアンシの包みを開いた。大きくなったお腹とよく張った胸が、きつく張った皮で吊られてでもいるかのように見えた。トゥテミは、痛みや吐き気を訴えることもなく、何かが特別欲しいと言ったりもしなかった。実のところ、お腹に子どもがいるときに女性が食べてはいけないとされるものは多く、そんなことで健康な赤ちゃんが産めるのだろうかと、たびたび思うほどだった。大きな獲物は食べることが許されず、たんぱく質を取れるものと言えば、昆虫、木の実、幼虫、魚、それから何種類かの小鳥だけだった。
「赤ちゃんはいつ生まれるの?」お腹の横を撫でながら、私は聞いた。
リティミは眉を寄せてしばらく考えてから言った。「今の月が来て行って、次の月が来て行って、そしてその次の月が来てそれが消える前に、丈夫な赤ちゃんが生まれるわ」
彼女の言っていることは合っているのだろうかと私は考えた。言うとおりなら、まだ三ヶ月先ということになる。けれども、私にはもういつ生まれてもおかしくないほどに見えた。
「川上に行くと魚がいるよ、あなたが好きな種類のやつ」微笑みながらトゥテミが言った。
「少し泳いで、それから一緒に魚を獲りに行くわ」
「わたしも一緒に泳ぎに行きたい」ちびのテショマがせがんだ。
「猿は置いてかなきゃダメよ」トゥテミが言った。
彼女はオマキザルをトゥテミの頭にとまらせると、私のあとを追って走ってきた。はしゃいで声を上げながら、水の中、彼女は私の肩につかまって背中に乗った。私は一かき一かきゆっくりと大きく手足を伸ばして泳ぎ、向こう岸の水溜りまで行った。
「川底までもぐってみたい?」私は聞いた。
「したい、したい」テショマは大きな声で言うと、濡れた小さな鼻を私の頬に擦りつけた。「目はちゃんと開けて、息はちゃんと止めて、おねえちゃんの首はしめないように、しっかりつかまるから」
水はそれほど深くなかった。**111**水溜りは木陰になっていたが、琥珀色の砂の上に、灰色、緋色、白の小石が散らばっているのがぼんやりと、しかし明るく輝いて見えた。首にテショマの手がしっかり巻きつけられているのを感じながら、私は素早く水面まで戻った。
「早く上がって」私たちの姿を見ると、トゥテミが大きな声で言った。「あなたたちを待ってたの」隣にいるリティミを指さして言った。
「シャボノに戻るところなの」リティミが言った。「カモシウェに会ったら、これを渡してちょうだい」幼虫の包みの最後の一つを、彼女は私に渡した。
よく踏みならされた道を、女たちと数人の男について私は歩いた。じき道の真中に立っているカモシウェに出くわした。自分の弓に寄りかかり、ぐっすり眠っているように見えた。私は包みを彼の足元に置いた。すると年老いたカモシウェは、いい方の目を開いた。明るい日差しに目を細めると、傷跡のある顔は歪んで、不気味なものに見えた。彼は幼虫の包みを拾い上げると、片方の足からもう一方の足に重心を変えながら、ゆっくりと食べ始めた。
カモシウェのあとについて、私たちは植物がよく茂った小さな丘を登っていった。彼の動きの素早さには目を見張るものがあった。彼は足元を見ることもなく、根やとげを避けて軽々と歩いた。
年老いて少しばかり縮んだ様子の彼は、私が知っている中で一番年を取って見える人物だった。髪の毛は、黒でも白でも灰色でもなく、はっきりしない色のウールのモップのようで、何年もくしを入れたことがないに違いなかった。けれど、その髪は短く、ちょくちょく刈っているようにも見えた。たぶんそれ以上伸びないのだろう、と私は考えた。彼のあごの不精ひげがいつも同じ長さなのと同じことだ。しわの刻まれた顔に残る傷跡は、彼の片目を奪った棍棒の一撃の名残だ。喋る声はほとんど呟きに過ぎず、何を言っているかは推測するしかなかった。
夜になると彼は、広場の真ん中に立ち、何時間も話すことがよくあった。子どもたちはその足元にしゃがみ込み、彼のためにつけられた焚き火に焚き木をくべた。**112**年老いたその声には、見かけからは信じられない力強さと優しさがあった。彼の言葉が夜の闇に放たれるとき、そこには急を要する響きがあり、戒めの意味合いや、惹きつけられる魅力が感じられた。「この老人の記憶の中にしまわれているのは、知恵と伝統の言葉だからな」ミラグロスがそう説明してくれたことがある。カモシウェがアンゲリカの父親であることを彼が教えてくれたのは、祭りのすぐあとのことだった。
「カモシウェがあなたのおじいさんだってこと?」信じられずに私は聞いたのだった。
「俺が生まれたときには、カモシウェはイティコテリの首長だった」ミラグロスはうなずきながら、そう言葉を続けた。
カモシウェはシャボノの入り口に近い小屋に一人で住んでいた。狩りも畑仕事ももうしなかったが、食べ物や薪に困ることはなかった。女たちが木の実や野いちご、焚き木を取りに畑や森に行くときには、彼も一緒に行った。カモシウェは、矢じりにつけたバナナの葉で顔に当たる日射しを遮り、弓に寄りかかって立ったまま、女たちが働く様子を見ているのだった。
時折り彼は宙で手を振った。鳥に向けてか、雲に向けてか、彼がイティコテリの誰かの魂だと信じるものに向かってのことだ。また時折り彼は一人笑った。けれど大抵は静かに立ったまま、夢を見ているか、それとも木々の葉をそよがす風の音に耳を傾けるかしていた。
イティコテリの人々の間にいるとき、彼が私の存在をわざわざ認めることはなかったが、片方だけの彼の目が私に向けられているのを感じることはしばしばあった。彼が私の居場所を確認しているのだとはっきり感じることもあり、それは、私が行動を共にしている女たちの集団に彼がいつもついてくることからしても間違いなかった。夕暮れ時、私が一人になろうと川に向かうときにも彼はそこにいて、私からそれほど遠くない場所にしゃがみこんでいるのだった。
私たちは両岸の間、川幅が広くなっているところで立ち止まった。黄色い砂の上に黒っぽい岩がいくつか、誰かがわざわざ左右対照に置いたかのように並んでいた。**113**日陰になっている水面は静かで、黒々とした鏡のように、巨大なマタパロスの木の気根を映していた。三十メートル近い高さから降りてくる何本もの気根が、きつく巻きつき、親となる木を締めつけていた。その死をもたらす気根の持ち主が、鳥によって小さな種を落とされ、最初に芽生えたのは、親木の一本の枝の上だったのだ。その親木が何の木なのか私には見分けがつかなかったが、悲劇的にも美しく曲げられた何本かの枝がとげだらけなのを見ると、パンヤノキだったのかもしれない。
何人かの女たちが、近くに生えているアラプリの木の枝を取って、浅い川に入っていった。女たちは水を打ち、甲高く耳に障る声が静けさを破った。驚いた魚は対岸の腐った草の下に逃げ場を求めたが、そこでは別の女たちが素手で魚を取ろうと待ち構えていた。女たちは魚の頭を噛み切り、まだ体をくねらせる魚を砂の上に置いたかごに投げ入れた。
「来て」首長の妻の一人が言った。私の手を取り、上流へと連れていく。「男たちの矢で、私たちの運を試すのよ」
女たちの集団は、武器を貸すようにと高い声で叫んで、一緒に来ていた男たち、少年たちを囲んだ。魚獲りは女の仕事と見なされていたので、男たちは一緒に来はしても、笑ったり野次を飛ばしたりするだけだったが、このときに限って、彼らは女たちに弓矢を使うことを許した。何人かの男が女に武器を渡し、間違って矢に当たったりしないようにと、川岸の安全なところへと急いで逃げた。まだ自分たちの中の誰も殺されていないことを、彼らは面とても白がって喜んだ。
「やってみろ」アラスウェはそう言って、自分の弓を私に渡した。
学校でアーチェリーをやったことがあったので、私は自分の腕には自信があった。けれど、彼の弓を受け取ると、それが無理であることがすぐに分かった。弓を引くことすらほとんどできず、短い矢を射ってみようにも腕の自由がきかなかったのだ。何度か試してみたものの一匹の魚も射ることができなかった。
**114**「何とも大胆な打ち方だな」カモシウェ老人はそう言うと、イラマモウェの息子の一人から小さい弓を借りて私に渡した。少年は何も言わなかったが、不満気に私をにらんだ。彼くらいの歳で、望んで女に弓を貸す者などいなかったのだ。
「もう一度やってみろ」カモシウェがうながした。彼の片方だけの目が、奇妙なほどに輝いていた。
少しもためらうことなく、私はもう一度弓を引いた。水面の下、輝く銀の魚が一瞬止まって見えたところに狙いを定めた。弓を引く力がふいになくなるのを感じ、矢が自然に放たれた。水を打つ矢の音がはっきり聞こえ、次に血が流れるのが見えた。女たちが歓声を上げながら、矢に射抜かれた魚を宙に掲げた。中くらいの鱒くらいの大きさの魚だった。私が武器を返すと、少年は驚きと賞賛の目で私を見た。
私はカモシウェ老人を探したが、もうどこかに行ってしまっていた。
「お前に小さい弓を作ってやろう」アラスウェが言った。「それと魚を射るのに使う細い矢をな」
男や女が周りに集まってきた。「その魚、本当にお前が仕留めたのか?」男の一人が聞いた。「もう一度やってくれ。見てなかったからな」
「この人がやったんだよ、この人がね」アラスウェの妻が、獲物を見せながら、受け合った。
「ア・ハハハハ」男たちは驚きの声を上げた。
「どこで弓矢の使い方を覚えたんだ?」アラスウェが聞いた。
学校とはどういうところなのか、自分にできる限りの説明を試みた。しかし、アラスウェの戸惑いの顔を見て、父親に習ったとでも言っておけばよかったと後悔した。二、三の文章だけでは説明できない事柄を説明しようとすると、私にとってだけではなく、聞いている相手にとっても、もどかしいことになってしまうことが何度もあった。適切な言葉を知らないということもあったが、彼らの言語にはある種の言葉がそもそも存在しないということから、難しさが生じるのだった。私が話せば話すほど、アラスウェの表情は混乱したものになっていった。**115** 彼は、がっかりした様子で眉を寄せながら、どうして弓矢の使い方を知っているのか、きちんと説明するようにと更に言った。ミラグロスが別の村に行っていなければなあと、私はため息をついた。
「鉄砲を扱うのがうまい白人なら何人か知っておる」アラスウェは言った。「しかし弓矢を使いこなす白人など一人も見たことがない」
矢が魚を射抜いたのはただの偶然だったのだし、別に大したことではなかったのだと、私は思って欲しかったが、アラスウェは私が先住民族の武器の使い方を確かに知っているとあくまでも言い張った。私の弓の構え方にはカモシウェも注目していたと、彼は大きな声で言うのだった。
学校とはどんなところなのかということは、どうにか伝えられたようだった。というのは、他に何を教わったのかを教えろと、彼らがせがんだからだ。ノートを文字で飾るやり方も学校で学んだことの一つだと言うと、彼らは大笑いをした。「きちんと教わらなかったんだろう」アラスウェは自信満々に言った。「お前の模様はまったくお粗末だ」
「マチェーテの作り方は知らないのか?」男の一人が聞いた。
「それには何百人も人が必要なの」私は言った。「マチェーテは工場で作られるのよ」分かってもらおうと一所懸命になればなるほど、私の舌はもつれた。「マチェーテを作るのは男だけなの」結局最後にそう言って、彼らに満足の行く説明がついたと、私は胸をなで下ろした。
「他には何を習った?」アラスウェが聞いた。
テープレコーダや懐中電灯など、何かそういった彼らをびっくりさせる物をもってきていないことが悔やまれた。そのとき、思い出したのが、数年間に渡って体操の練習をしたことがあるということだった。「宙を飛ぶことができるわ」私は特に考えずにぱっと言った。そして、砂地の浜をきれいにして正方形の場所を作り、魚で一杯のかごをその四隅に一つずつ置いた。「この中には誰も入ならいでね」私は自分専用の競技場の真ん中に立つと、好奇心も露わにして自分を取り巻いている、たくさんの顔を見回した。私が柔軟体操をし始めると、彼らは面白がって大きな笑い声を上げた。**116**砂には、床体操用のマットのような柔らかさはないが、着地を誤っても怪我をすることはないだろうと考えて私は自分を安心させた。私は何度か倒立、側転、そして前方と後方の倒立転回をし、最後に前方と後方の宙返りをした。演技を終えた体操選手の見事な着地、という具合にはいかなかったが、取り巻く観衆の称賛の顔に私は満足した。
「全く奇妙なことを教わっているものだ」アラスウェが言った。「もう一度やってみせろ」
「二回続けては無理よ」私は呼吸を整えようと砂の上に座った。たとえもう一度演技をしたいと思ったとしても、とてもできる状態ではなかった。
男も女も近づいてきて、興味津々の目を私に向けた。「他には何ができる?」男の一人が聞いた。
少しの間わたしは言葉に詰まった。もう十分やったと思ったのだ。けれどしばらく考えてから私は言った。「頭で座ることができるわ」
周りの皆は笑いに体を震わせて、涙が頬に流れるほどだった。「頭で座るだって!」彼らはそう繰り返し言っては、その度に新たな笑いの渦が起きるのだった。
前腕を地面に平らに付けると、合わせた手のひらの上に額を乗せ、私はゆっくりと体を持ち上げた。そしてバランスを確かめてから、宙で足を組んだ。笑いが止んだ。アラスウェが地面に平らに寝そべり、顔を私の顔に近づけた。そして、目尻にしわを寄せて私に微笑みかけた。「白い娘さんよ、お前さんのことをどう考えればいいのか、わしには分からん。けれど分かるのは、お前と一緒に森に行ったら、猿たちは動きを止めてお前を見入るに違いないということだ。呪文にかけられたように、じっとお前に見入ってる猿たちを、わしが弓で射っちまえるに違いない」皮膚の固くなった大きな手で、彼は私の顔に触れた。「もう普通に座ったらいい。オノトを塗ったように顔が真っ赤だ。お前の目玉が転がり落ちないかと心配だよ」

シャボノに戻るとトゥテミが、ピシャアンシの葉に包んで調理した魚の包みを一つ、私の前の地面に置いてくれた。**117**皆が驚いたが、私は魚のほうが、アルマジロやペッカリや猿の肉よりも好きだった。クロリの灰から作られるしょっぱい調味料とピシャアンシの葉の風味が、魚本来の味に辛味を加えてとてもおいしくなるのだ。
「お前が弓矢の使い方を習ったのは、父親の望みだったかのか?」アラスウェが私の隣のしゃがみ込んで聞いた。そして、私が答えるのを待たずに続けた。「お前が生まれたとき、父親は男の子が欲しかったのか?」
「そんなことはないと思うな。私が生まれてとても喜んでくれたし、もう二人の息子がいたし」
アラスウェは自分の前に置かれた包みを開けた。言葉ではうまく表すことができない謎について考えを巡らしているかのように、黙ったまま魚を葉っぱの真ん中に動かした。自分の魚を少し取るようにと、彼は身振りで示した。私は親指ともう二本の指で、大きめの魚の一切れを取り、口に入れた。私は腕に垂れた汁をなめ、舌が骨に当たると、魚の砕けやすい身は吐き出すことなく、骨だけを地面に吐き捨てた。こうすることは、イティコテリの作法に適うことだった。
「どうして矢の打ち方など習った?」アラスウェがじれったいとでも言うような調子で聞いた。
「いつかここに来ることになるって、私の中の何かが知ってたのかもしれない」考えることもなく、私は答えた。
「女は弓矢を使わんということも、知っとったらよかったのにな」私に軽く微笑むと、彼は魚を食べ始めた。

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[第10回]

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