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2017年9月3日日曜日

11 フロリンダ・ドナー「シャボノ」 -- アマゾンの奥地・ヤノマミ族の暮らし


ここに翻訳を掲載している「シャボノ」は、アメリカのカリフォルニア大学ロスアンゼルス校で文化人類学を専攻した女性作家フロリンダ・ドナーが、アマゾン奥地の先住民族ヤノマミの暮らしを描いたノンフィクションです。

ドナーは、メキシコの呪術師の世界を描いた「ドン・ファン・シリーズ」で知られるカルロス・カスタネダの呪術師仲間でもあり、この「シャボノ」に
おいても、幻覚性植物の摂取による変性意識体験や、シャーマニズムの奥深い世界観が興味深く語られます。

また、ヤノマミの人々は、NHKの番組から劇場公開された「ヤノマミ~奥アマゾン-原初の森に生きる~-劇場版」でも描かれるように、嬰児殺しの風習をもつことで知られます。

第11回目の今回は、狩りに使う毒を作る男たちの様子や、初潮を迎えた少女の通過儀礼や結婚の光景が語られます。

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○フロリンダ・ドナー「シャボノ」那賀乃とし兵衛訳、第11回

Frolinda Donner "Shabono" 1982 a Laurel Book
[今回は、四百字詰め原稿用紙30枚ほどの分量です]

☆この作品の簡単な紹介はこちらにあります。
[本の紹介: フロリンダ・ドナー「シャボノ」]

☆第1回〜第10回はこちらです。
[第1回] | [第2回] | [第3回] | [第4回] | [第5回] | [第6回] | [第7回] | [第8回] | [第9回] | [第10回]

[この試訳は編集中のものですが、ネット上で公開することにより、多くの方からのご意見をいただけたらと考え、こちらに置くことにします]

それでは、どうぞお楽しみください。

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第3部

**126**
第11章

ある朝のこと、女たちの静かなお喋りの声ではなく、イラマモウェの大きな声で私は目を覚ました。その日クラレの準備をするのだと、彼は告げていた。
私はハンモックの中で体を起こして座った。イラマモウェは両足を広げ、胸の前で腕を組み、広場の真ん中に立ち、周りに集まった若者たちを鋭い目で見回した。毒を作る準備を手伝う気があるなら、その日は女と寝てはならないと、彼は声を限りに警告した。男たちがすでに過ちを犯しているというかのように、イラマモウェはまくしたてた。自分の言葉に従ったかどうかは、猿に対して毒の効き目を試せばすぐに分ることだと、彼は言った。もしその猿が死なないようなことがあれば、男たちには二度と手伝ってもらうことはないだろう。またもし自分とともに森に入り、マムコリを作るための様々なつる植物を集めようというのなら、各人が矢尻にその毒を塗るまでは食べることも飲むこともしてはならないのだと、イラマモウェは告げた。
男たちが出て行ってしまうと、シャボノには静けさが戻った。トゥテミは火に焚き木をくべてから、自分とリティミ、そしてエテワのためにタバコの葉を一口大に巻き、自分のハンモックに戻った。おき火の下に置かれたプランテンに火が通るまでに、もう一眠りできるだろうと、私は思った。**127**ハンモックの中で寝返りを打つと、煙が冷たい空気を暖め始めているのを感じた。ちびのテショマとシシウェが、アラスウェの下の息子二人と一緒に、いつものように朝のトイレを済ませたあとで、私のハンモックによじ登り、私に体を擦りつけてきた。
リティミはその朝の出来事など気にならない様子で、地面の上でまだぐっすりと眠っていた。眠りも彼女の美しさを損なうことがなく、昔ながらの素晴らしい飾りをつけていても大丈夫なように、彼女は頭を片腕で支えて横になっていた。磨かれた細身の木の棒が、鼻中隔と口の両端に優雅に差されている。高い頬には二本の線が茶色く描かれ、シャボノの誰が見ても彼女が生理中であることが分るようになっていた。この二晩、リティミは自分のハンモックで寝ることはなく、肉も食べず、食事の支度も一切せず、エテワにも、エテワの持ち物にも決して手を触れなかった。
男は生理中の女を恐れた。リティミが以前話してくれたところによれば、女は胸の中にヘクラがいない代わりに、地上最初の女の祖であるカワウソの命の要素とのつながりがあるのだという。生理のあいだ女には、カワウソの持つ超自然的力が宿る。それがどんな力なのかリティミは知らないようだったが、男が川でカワウソを見かけても決して殺すことはないのは、カワウソを殺したまさにその瞬間に、村で女が死ぬことになるのを恐れてのことだというのだった。
イティコテリの女たちは、私がシャボノに来て以来一度も生理にならないので、初めのうちは不思議がっていた。体重が減ったとか、食べ物が変わったとか、新しい環境になったからとかいう私の説明に、女たちは納得しなかった。その代わりに、先住民族でない私は完全には人間ではないのだと考えた。私には獣や草木、精霊のいずれの命の要素ともつながりがないというわけだった。
私が人間であると考え、それを他の女たちに納得させようと思ったのはリティミだけだった。「あなたがルーになったら私がお母さんだと思ってすぐに言わなきゃダメよ」自分が生理になるたびに彼女はそう言った。「そしたら私がちゃんと準備をしてあげて、地底に住んでる小っちゃな生き物たちが、あんたを石に変えたりしないように守ってあげるから」
**128**
リティミのそうしたこだわりも一つの理由となって、私のからだは自然なリズムにサイクルに従わなくなっていたのだろう。私には閉所恐怖の気があったので、イティコテリの少女たちが初めての生理の時に従わざるをえない制限を、自分も受けることになるかもしれないと考えると、どうしても強い不安を感じたのだ。

首長の娘の一人であるショトミが、三週間のお籠もりを終えて、ようやく一週間が過ぎたところだった。ショトミが初めての生理を迎えたと知ると、母親は木の棒、椰子の葉、草木のつるを使って小屋の隅に囲いを作った。囲いには、母親がやっと通れるだけの隙間が開けてあった。囲いの中では、ほんの少しの火が焚かれ、その火を絶やすことは許されない。地面にはプラタニージョの葉が敷かれている。母親が日に二度、火に焚き木をくべ、土で汚れたプラタニージョの葉を取り替えた。男たちは若死にしたり、病になったりすることを恐れ、囲いの方はちらりとも見なかった。
生理が始まって最初の三日は、水しか口にすることができず、地面で眠らなければならない。その後は一日に三本、小さなプランテンが与えられ、囲いの中に吊られた、木の皮の小さなハンモックで休むことが許された。お籠もりの間は、喋ることも泣くことも許されなかった。結ばれた椰子の葉の覆いの向こうから聞こえてくるのは、ショトミが木の棒で体を掻く微かな音だけだった。自分の体に触れることも許されないのである。
三週間めの終わりに、母親は囲いをばらばらにし、椰子の葉をきつく縛って束にすると、娘の遊び友だちに言って森の中に隠させた。まだ椰子の葉の囲いの中にいるかのように、ショトミはじっとして動かなかった。視線を下に落とし、地面にしゃがみこんだままでいる。少しすぼめた肩は何とももろそうに見え、誰かが軽くつかんだだけでぽきりと折れてしまいそうだった。 **129** 今まで見たことがないほど少女は怯えた様子で、やせて汚れて見えた。
「地面だけ見てるんだよ」少女は十二か、ひょっとすると十三だろうか。彼女が立ち上がるのを、母親は支えてやった。両腕を娘の腰に回し、囲炉裏まで連れていった。「広場にいる男たちを見たりするんじゃないよ」母親は娘に諭した。「その男が木に登ろうってときに、足が震えればいいっていうんなら別だがね」
お湯が沸かしてあった。リティミは愛情を込めて、腹違いの妹であるショトミを頭から足まで洗ってやった。そして、全身が一様に赤く染まるまでオノトを塗ってやった。リティミが少女を炉端に連れていくと、新しいバナナの葉が火にくべられた。ショトミの肌から、焼いたバナナの葉の匂い以外しなくなると、ようやく少女は私たちと顔を合わせ、言葉を交わすことを許された。
彼女は下唇をかみながら、ゆっくりと頭を上げた。「お母さん、あたし、お父さんの小屋にずっといたい」ようやくそう言うと、わんわん泣き出した。
「まあまあ、なんておばかさんだこと」母親はショトミの顔を両手で包みながら驚いてみせた。そして、娘の涙を拭ってやりながら、ハヤマの一番若い息子であるマツウェの妻になることがどんなに運のいいことか、彼女はショトミに言って聞かせた。それに、自分の兄弟のすぐそばにいられるのもまったく幸運なことで、もし夫が大事にしてくれなければ、兄弟にかばってもらえるのだから、と言った。母親の黒い瞳が涙に潤んだ。「わたしが初めてこのシャボノにやってきたときは、それは重たい気分だったよ。母親とも兄弟とも別れて一人ここに来たんだ。誰もかばってくれる人もなくてね」
トゥテミが少女を抱きしめた。「わたしを見なよ。わたしも遠くから来たけど、今は幸せだよ。もうじき赤ちゃんも生まれるし」
「赤ちゃんなんてほしくない」ショトミはすすり泣いた。「ペットのお猿さんがいれば、それでいいんだもん」
ぱっと思いついて、私はバナナの房の上にいる猿を手にとり、ショトミに渡した。女たちが一斉にくすくすと笑い始めた。「お前が夫を大事にすれば、夫はペットのお猿のようにお前になつくはずだよ」**130**女たちの一人が笑いの切れ間にそう言った。
「そんなことをこの娘に吹きこまないでおくれ」ハヤマのお婆が咎めるように言った。彼女は笑みを浮かべながら、ショトミに顔を向けた。「息子はいい男だよ」彼女はなだめるように言った。「恐がることなんて何もない」マツウェは狩りも得意で、一家のいい支え手になるだろうと、息子を持ち上げた。
婚礼の日、ショトミは静かにすすり泣いていた。ハヤマが隣に来て言った。「もう泣くのはおよし。今日は皆がいっぱいほめてくれるよ。とっても綺麗におめかしをするから、誰もがおどろいて息を飲むだろうさ」彼女はショトミの手を取ると、他の女たちに、自分たちに続いてシャボノの横の出口から森へ出るよう身振りで示した。
木の切り株に腰を下ろすと、ショトミは手の甲で涙を拭った。ハヤマのお婆の顔を見ているうちに、楽しげな笑みが少女の顔に浮かんだ。そして彼女は婚礼のための準備を女たちの手に任せた。髪は短く刈られ、頭のてっぺんは剃られた。穴の開けられた両の耳たぶには白く柔らかい羽根の束が通され、少女の黒髪との対比が鮮やかで、痩せた顔にこの世のものとは思えない美しさを添えた。口の両脇と下唇の穴は、赤い金剛インコの羽根で飾られた。鼻中隔に開けられた穴には、ほとんど白に近い色でとても細身の、磨き上げられた飾り棒がリティミによって通された。
「なんて可愛らしいんでしょ」目の前に立ったショトミに向かって、私たちは賛嘆の声を上げた。
「お母さん、あたし、もう行くよ」真剣な面持ちで彼女は言った。切れ長の黒い目は輝き、肌はオノトで赤く染まっていた。ほんの少し微笑み、力強くきれいに並んだ歯を見せると、シャボノへ戻る道を歩き出した。広場に入る直前にほんの少しだけ、振り向いて母親を見た彼女の目には、言葉にはならない懇願の色が見えた。
頭を高く上げ、誰かに視線をやることはなく、ショトミは静かに広場を回った。男たちの賞賛の言葉や視線を気にする様子はない。**131**そして父親の小屋に入ると、プランテンのスープで一杯の槽の前に座った。まずスープをアラスウェによそい、次におじたち、そして兄弟たちに、最後にはシャボノの男たち全員にスープをよそった。女たちの全てにもよそい終わると、彼女はハヤマの小屋に行った。ハンモックの一つに腰かけると、夫が用意した獲物を食べ始めた。この夫と結婚することは、彼女が生まれる前に決められたことだったのである。

「プランテンはここで食べる? それともハヤマのところで?」トゥテミの言葉で私の回想は遮られた。
「向こうで食べたほうがいいかな」リティミの祖母のハヤマに笑顔を向けながら私は言った。ハヤマは隣の小屋で私を待ちかねている。
私が入っていくと、ショトミが微笑みかけてきた。彼女は大きく変わった。その変化は、お籠もりが開けて体重を回復したこととは関係がない。そうではなくて、私を見るときの様子や、プランテンをすすめるときの仕草などが、大人びていて以前とは違うのだ。男の子は十代になっても子ども時代が続くのに対して、女の子は六つから八つくらいになれば家のことで母親の手伝いをするように期待され、焚き木を集め、畑の草を取り、幼い弟妹の面倒を見る、そうしたことが理由なのだろうかと私は考えた。少年が大人と見なされる年齢になるころには、同じ年の少女はすでに結婚していて、子どもが一人か二人いてもおかしくはないのである。

食事が終わると、私は、トゥテミ、ショトミと一緒に畑で何時間か働き、川で水浴びをしてからシャボノに戻った。顔と体を黒く塗った一団の男たちが広場に座っていた。何人かは太い木の枝を使って木の皮をこそげ落としている。
「この人たち誰?」私は聞いた。
「分からないの?」トゥテミは私を笑った。「昨日イラマモウェと一緒に森へ行った男たちじゃない」
**132**「どうして黒く塗ってるの?」
「イラマモウェ!」トゥテミが大声で言った。「白い娘が知りたがってるわよ、どうしてあなたたちの顔が真っ黒なのか」そう言うと、自分の小屋に走って入った。
「走ってくれるとはありがたい」イラマモウェが、立ち上がりながら言った。「お前の腹の中の赤ん坊が、マヌコリに水を加えて効き目を弱めてしまうかもしれんからな」彼は眉をひそめて、ショトミと私の方を見た。彼が他に何かいう隙を与えずに、ショトミは私の手を引っ張ってエテワの小屋に入った。
大笑いをしながら、ショトミが説明してくれたことによると、その日、水の中に入ったものは、クラレの準備をしている男たちのそばに近寄ってはならないということだった。毒の効き目は水で弱まってしまうと考えられているからだ。「もしマヌコリがうまく効かなかったら、責められるのはあなたよ」
「マムコリを作るところを見たかったのになあ」私は残念に思い、そう言った。
「どうしてそんなものが見たいのかしらね?」リティミが体を起こし、地面の上に座りながら言った。「男たちがこのあとどうするのか、わたしがみんな教えてあげるわ」あくびと伸びをすると、地面に敷いてその上で寝ていたプラタニージョの葉を折って片付け、新しい葉を地面に敷き詰めた。「マムコリは狩りに使うだけじゃなくて戦(いくさ)にも使うから、男たちは黒く塗ってるの」リティミはそう言って、隣に座るよう手招きした。彼女はバナナの皮をむいて頬張ると、男たちがどうなふうにしてマムコリのつるを煮て、黒い液体にするのかを教えてくれた。その黒い毒の汁には、粘り気を持たせるため、干したアシュカマキのつるが加えられる。二種類のつるを合わせて煎じた汁が煮詰まれば、あとは矢尻に塗るばかりだ。
残念だったが毒作りを見学するのは諦めて、私はトゥテミがタバコの葉を干すのを手伝った。彼女の細かい指示に従って、一枚一枚の葉を葉脈にそって裂き、上向きに引っ張って束ね、しばって束にすると垂木の上に載せた。
私が座っているところからは、イラマモウェの小屋の外で何が行われているのかを見ることはできなかった。**133**働く男たちの周りには、子どもたちが手伝いを頼まれたくて、期待して待っている。道理でその朝、川で水浴びをする子どもを一人も見かけなかったわけだ。
「川に行って少し水を汲んできてくれ」イラマモウェがちびのシシウェに言った。「足を濡らしたらいかんぞ。木の幹か根っこ、さもなきゃ石の上に乗って汲むんだ。もしお前が濡れちまったら、別の誰かに頼まにゃならん」
イラマモウェがクラレを調合し、煎じる作業が終わりに近づいたのは、午後も遅くになってからだった。「さあ、マムコリの効き目が強くなってきたぞ。両手がそろそろ眠りにつこうとしとるのが、わしには分かる」彼はクラレをかき回しながら、ゆっくりと単調な節回しで、毒の精霊に唱いを捧げ始めた。
翌日の朝も遅くになってから、イラマモウェがシャボノに駆け込んできた。「このマムコリは役に立たん。猿を打ったのに死ななかった。役立たずの矢を、足に刺したまま逃げてしまったわい」イラマモウェは小屋から小屋へ走り周り、クラレの準備を手伝った男たちを罵った。「女と寝るなと警告しただろうが。マムコリに効き目がないんだぞ。敵が襲ってきても女たちを守ることもできん。自分たちを勇敢な戦士だと思っとるかもしれんが、お前たちの持ってる矢と同様、お前たちは役立たずだ。武器の代わりにかごでも持ち歩くのがお似合いだな」
イラマモウェが広場の真ん中に座り込むのを見て、一瞬彼が泣き出すのではないかと思った。「一人で毒を作りなおさにゃならん。この役立たずどもが!」怒りが出尽くし、疲れ果てるまで、彼はいつまでもぶつぶつと文句を言い続けた。

それから数日たった夜明けのことである。新しい毒をつけた矢でイラマモウェが仕留めた猿が、もう少しで焼き上がるというところに、よそ者の男が一人、大きな包みを持ってシャボノにやってきた。川で水浴びをしたらしく髪はまだ濡れており、顔にも体にも大袈裟と言ってよいほどの模様がオノトで描かれていた。荷物と弓矢を地面に置くと、男は広場の真ん中で物も言わずしばらく立ち尽くした。そしてアラスウェの小屋に近づいていった。
**134**「わたしはあなたを祭りに招待するためにやって参りました」大きな声で歌うように男は言った。「我々のところには、たくさんの熟れたプランテンがあることを告げるために、モコトテリの首長の申し付けでやって参ったのです」
ハンモックから起き上がることなく、アラスウェは男に、祭りには参加できないと告げた。「今は畑を離れるわけにはいかん。新しいバナナの苗を植えたばかりで、その世話をせにゃならんからな」アラスウェは手で回りを指し示す身振りをした。「垂木から吊ってある果物を見ろ。これを全部だめにするわけにはいかん」
客は私たちの小屋のところに来るとエテワに呼びかけた。「あなたの義理の父君は祭りに来ることをお望みではありません。わたしをこうして遣わした者たちのところへ、あなたに来ていただけたら光栄なのですが」
エテワは喜んで両の腿を叩いた。「よし、俺は行くぞ。プランテンは置いていけばいい。他の者たちに食べるように言っておけばな」
小屋から小屋へと、イティコテリの人々を自分の村に招いて回っている間、客の黒く活き活きとした目は喜びに輝いていた。男はカモシウェの小屋に招かれて休んだ。プランテンのスープと猿の肉が振る舞われた。夕方になると男は、広場の真ん中で持ってきた包みを開いた。「ハンモックが一つか」客の周りに集まった男たちはがっかりして呟いた。イティコテリの人々も綿のハンモックの快適さと暖かさは知っていたが、数人の女が持っているだけで、男たちは木の皮かつるのハンモックを使って、定期的に新しいものに取り替えるほうを好んだ。客はその綿のハンモックを、毒の塗られた矢と種から作られたエペナの粉と交換しようと熱心だった。イティコテリの男の中には、お喋りをし、ニュースを交換して、一晩中、客と一緒に過ごすものもいた。

**135** モコトテリの祭りに行くグループに私が参加してはならないということについて、アラスウェは譲る姿勢を見せなかった。「ミラグロスはお前をわしに託したんだぞ」首長はわたしにそう言って思い出させた。「お前が別の場所にいたら、どうやってお前を守れるというんだ」
「何から私を守るっていうの?」私は聞いた。「モコトテリの人々は危険だってこと?」
「モコトテリは信用ならん連中だ」長い沈黙のあとで、アラスウェは言った。「お前が行くのはよくないことだと、わしはこの両足で感じとるんでな」
「初めてアンゲリカと会ったとき、女が森を一人で歩いても危険はないと教えてくれたわ」
アラスウェは私の言葉にわざわざ答えたりはせず、私が見えなくなったとでもいうような眼差しで私の方を見た。もう話は終わったと彼が考えており、物を知らない娘とこれ以上お喋りを続けることで、威厳を損なったりするつもりがないのは明らかだった。
「ミラグロスがそこに来るかもしれないじゃない」
アラスウェは笑みを浮かべた。「ミラグロスは行かん。もし彼が行くのなら、何も心配することなどないんだ」
「どうしてモコトテリは信用しちゃいけないの?」私は食い下がった。
「お前は質問が多すぎる」アラスウェは言った。「モコトテリとは友好的な間柄ではないんでな」彼は渋々そう付け加えた。
信じられない思いで、私は彼を見た。「じゃあどうしてあなたを祭りに誘ったの?」
「お前は何も分っちゃおらん」アラスウェはそう言い残して小屋を出ていった。
アラスウェの決定に幻滅したのは私だけではなかった。リティミは私のことをモコトテリたちに見せびらかすことができないことに納得がいかず、エテワとイラマモウェ、そして、老カモシウェにまで助けを求め、私を一緒に連れていけるように、自分の父親の説得にあたった。年寄りの助言を重く受け止め、尊重するのが慣わしではあったが、最終的にアラスウェを納得させたのは、勇敢さで知られる弟のイラマモウェだった。モコトテリの居住地で私に危害が加わるようなことは一切させないと、彼が請け合ってくれたのである。
「わしが作ってやった弓矢を持っていったらいい」夕方アラスウェはそう言うと、大きな声で笑った。「モコトテリの連中が驚くこと請け合いだ。やつらのたまげる顔を見るためだけにでも、わざわざ出かけていく値打ちがあるほどだ」しかし、実際に私が自分の矢を手入れしているのを見ると、アラスウェは真顔で言った。「いや、それは置いていけ。男の武器を持って女が森を歩くわけにはいかんからな」
**136**「彼女の面倒は私が見るわ」リティミは父親にそう約束した。「いつも私がそばにいるようにするから。彼女が薮に用を足しに行くときでもね」
「ミラグロスも私が行くことを歓迎してくれたでしょうね」少しでもアラスウェの気持ちがほぐれるようにと思って、私は言った。
浮かぬ顔でまばたきしながら、彼は肩をすくめた。「お前が無事に戻ると信じることにするさ」
祭りに行くことの期待と不安が入り混じって、私はその晩、眠れずにいた。囲炉裏の中で焚き木が崩れる音は、聞き慣れているものなのにも関わらず、その音を聞いて、私は何か悪いことが起こりそうな予感で一杯になった。エテワが横になる前に木の棒で熾火をかき回した。煙と夜露を通して遠くに見える樹冠が、幽霊のように見えた。木々の葉の間にぽっかりと空いた空間は、虚ろな目玉のようで、私には理解のできないことで私を責め立てているかのように思えた。アラスウェの言った通り、祭りに行くのはやめたほうがいいのだと私は思いかけたが、朝の光を見ると、そうした不安はかき消されてなくなった。

[続く]

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☆第1回〜第10回はこちらです。
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