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2018年2月12日月曜日

12 フロリンダ・ドナー「シャボノ」 -- アマゾンの奥地・ヤノマミ族の暮らし


ここに翻訳を掲載している「シャボノ」は、アメリカのカリフォルニア大学ロスアンゼルス校で文化人類学を専攻した女性作家フロリンダ・ドナーが、アマゾン奥地の先住民族ヤノマミの暮らしを描いたノンフィクションです。

ドナーは、メキシコの呪術師の世界を描いた「ドン・ファン・シリーズ」で知られるカルロス・カスタネダの呪術師仲間でもあり、この「シャボノ」においても、幻覚性植物の摂取による変性意識体験や、シャーマニズムの奥深い世界観が興味深く語られます。

また、ヤノマミの人々は、NHKの番組から劇場公開された「ヤノマミ~奥アマゾン-原初の森に生きる~-劇場版」でも描かれるように、嬰児殺しの風習をもつことで知られます。

第12回目の今回は、イティコテリの人々が祭りに招かれ、隣の村へ出かけていき、そこでの踊りや歌などの様子が描かれます。

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フロリンダ・ドナー「シャボノ」那賀乃とし兵衛訳、第12回
Frolinda Donner "Shabono" 1982 a Laurel Book
[今回は、四百字詰め原稿用紙35枚ほどの分量です]

☆なお、この作品の簡単な紹介はこちらにあります。
[本の紹介: フロリンダ・ドナー「シャボノ」]

☆第1回〜第11回はこちらです。
[第1回] | [第2回] | [第3回] | [第4回] | [第5回] | [第6回] | [第7回] | [第8回] | [第9回] | [第10回] | [第11回]

[この試訳は編集中のものですが、ネット上で公開することにより、多くの方からのご意見をいただけたらと考え、こちらに置くことにします]

それでは、どうぞお楽しみください。

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**137**
12
朝の冷たい空気を日射しがいくらも暖めないうちに、私たちはたくさんの籠を持ってシャボノを出た。籠にはプランテンやひょうたんにハンモック、そして身を飾るための道具一式と、交易のための品物が詰められていた。交易の品物は、生成りの木綿のより糸の太い束、新しいデザインの矢尻、そしてエペナやオノトで満たされた竹製の容器だった。年上の子どもたちは、自分のハンモックを首にかけて母親のすぐ後ろを歩いた。それぞれの家族の最後尾には男たちが、自分の弓矢以外は荷物を持たずに歩いていた。
 一行は二十三人だった。老人と子どもたちに合わせたのんびりしたペースで、四日の間、私たちは静かに森を歩いた。女たちは、薮の中の微かな動きや物音に気づくと足を止め、そっと顎で気配があった方向を指し示した。すると男たちは、示された方向に音もなく消えていき、大抵の場合、獲物を仕留めて帰ってきた。兎に似たアグーティやペッカリー、あるいは様々な鳥などが獲物で、午後になって野営地を定めると、そうした獲物はすぐに調理された。子どもらは、森の果実を探して飽きることがなく、また、鋭い目線で飛ぶ蜂を追い、木のうろに作られた巣を探し当てた。飛ぶ蜂を見て、それが人を刺す種類かどうかを言い当てるのも、彼らにはたやすいことだった。
ハヤマとカモシウェ、そして何人かの年寄りは、木から取った靱皮繊維で作ったひもで、胸と腹を巻いていた。そうすると、エネルギーが回復し、歩きやすくなるというのだが、私が真似をしてみても、きつく巻いた靱皮のひもで皮膚が擦れて赤くなるだけで、特に効果は感じられなかった。
丘を登っては降りて、道を歩いていきながら、これはミラグロスと通った道とは違うのだろうかと私は考えた。木も岩も、川の流れの一本も、見覚えのあるものは一つもなく、また、沼地の上を舞い飛ぶ蚊やそのほかの虫にもまったく覚えがなかった。汗をかいた体に引き寄せられて、虫たちは執拗なまでにまとわりついてきた。それまで虫に悩まされたことなどない私には、どこから体をかけばいいのか見当もつかないほどだった。ぼろぼろのTシャツは無論、虫を防ぐのになんの役にも立たなかった。初めのうちは虫たちの容赦のない攻撃にもどこ吹く風だったイラマモウェですら、時おり首や腕をぴしゃりと叩き、また足を持ち上げて踵を掻いては、虫に刺される煩わしさを示していた。
五日めの昼ごろになって、私たちはモコトテリの畑の端に野営地を定めた。下生えをきれいに刈られて、巨大なセイバの木々は、森にあるときよりも更に威厳を増して感じられた。その葉の間を縫って落ちてくる太陽の光線は、暗い地面を日向と日陰に塗り分けている。
私たちは近くの川で水浴びをした。水面を覆うように垂れ下がる蔓には、赤い花が咲き乱れ、そよ風に吹かれて優雅に揺れていた。イラマモウェと三人の若い男が、まず祭り用の飾りを身につけた。そしてオノトで体に模様を描くと、祭りの招き手のシャボノへと向かった。イラマモウェは、炙り肉と焼いたプランテンでいっぱいの籠を抱えて、じき戻ってきた。
「オーホーー、モコトテリのところには、まだまだたくさんあるぞ」そう言いながら、彼は食べ物をみんなに配った。
**139**
女たちは自分たちの身を飾る前に、男たちの飾りを手伝った。男たちの髪には水鳥の白い羽毛が散らされ、腕と頭の周りには鳥の羽根と猿の毛皮が巻かれた。子どもたちの顔と体に、あらかじめ決められた模様を描く作業が私には任された。
一人のモコトテリの男がやってきて、大きな声を上げ、私たちの笑いとお喋りは遮られた。
「猿みたいな男ね」リティミが小さな声で言った。
思わず笑い出しそうになるのをなんとか抑えて、私はうなずいた。エテワとイラマモウェは、白い羽毛で頭を飾り、色とりどりのマカウの長い羽根が腕輪から垂らされ、色鮮やかな赤い帯を腰に巻いて、堂々と立っている。その横にモコトテリの男が立つと、その短いO脚と不釣り合いに長い両腕が、否応なく目立ってしまうのだった。
「私どもの首長は祭りを始めたいと申しておりますので、どうぞ皆さま、早々にいらっしゃってください」男は甲高い儀礼的な声でそう言った。私たちのシャボノまで、祭りへの招待にやってきた男と同じ調子の声だった。「皆さまが着飾るのに時間がかかるようですと、お話しを楽しむ時間はなくなってしまうことでしょう」
頭を高く上げ、顎は少し上向きにして、エテワとイラマモウェ、そして同様に飾りを身につけ、オノトの模様で正式に身を飾った三人の若い男が、モコトテリの男のあとに続いた。男たちは無関心を装ってはいたが、残る私たちが称賛の眼差しで見ているのを意識しながら、シャボノへ向かう道を誇らしげに歩いていった。
時間に追われる緊張を振り払って女たちは、花や羽根をこちらに一つ、オノトをあちらに一筆と、おめかしの仕上げを急いだ。鏡はなかったから、出来映えの判断は人任せだった。
**140**
リティミが私の腰に帯を巻いてくれ、幅広い房飾りがきちんと正面にくるようにしてくれた。「相変わらずやせっぽちねえ」彼女は私の胸に触りながら、そう言った。「いっぱい食べてるっていうのに。今日は私たちのシャボノにいるときみたいに食べちゃだめよ、そんなことしたら、私たちが十分食べ物を上げてないと思われちゃうから」
私は、ほんのちょっとしか食べないからとリティミに約束し、そのあと思わず吹き出してしまった。子どもの頃、母にまったく同じことを言われていたのを思い出したからだ。週末に友だちのところで過ごすときには、いつもそのことを言われた。私があまりに大食いなのには母も戸惑っていて、他の家の人に、私はちゃんと食べさせてもらっていないのではないか、あるいはもっと悪ければ、サナダムシでも寄生しているのではないかと思わるのが心配だったのだ。
モコトテリのシャボノへ、いよいよ出向こうという直前になって、ハヤマのお婆は、ひ孫のテショマとシシウェに行儀よく振る舞うように、きつく言い聞かせた。そして、一緒に来ている他の子どもたちにもよく聞こえるように大きな声を出して、祭りが終わって自分たちが帰ったあと、モコトテリの女たちに口やかましく批判されたりしないようにすることがどれだけ大切かを強調して説きただした。更にハヤマは、子どもたちに最後にもう一度、薮の陰で大小の用を足しておくように言いつけた。一旦シャボノに入ってしまえば、子どもたちが粗相をしてもあとを片付ける者はいないし、外に出る必要があっても誰も連れて出てはくれないからだ。
モコトテリの広場に近づくと、男たちは一列に並び、威厳を持って上向きにした顔の横に、武器を垂直に掲げて持った。私たちは、子どもたちと一緒にその後ろに立った。
私に気づくとすぐに、一群の女たちが小屋から走り出してきた。女たちは、私の顔や体に手を触れ、キスし、舐めるなどしたが、私は怖くはなかったし、抵抗もしなかった。リティミは、初めて私がイティコテリの居住地を訪れたときに、自分たちがどんなふうに私を出迎えてくれたかを忘れたかのように、小さな声でぶつぶつと、私の肌に描かれたオノトの模様をまたやり直さなければならないじゃない、と言い続けていた。
モコトテリの女の一人が、私の腕をぎゅっと握りしめると、リティミを脇に押しのけて言った。「白い娘、私と一緒に来るのよ」
「だめ」リティミが大きな声でそう言うと、私を引き戻した。顔には笑みを浮かべていたが、鋭い怒りを表わす声の調子を隠すことはなかった。「白い娘は、あなたたちに見せるために連れてきただけよ。私のそばから引き離すことは誰にも許さない。私たちは互いの影のようなもの。彼女が行くところには私も行き、私が行くところには彼女も行くの」相手の女を打ち負かそうと、女の睨みつける視線をじっと見返し、自分の言葉に逆らえるものなら、逆らってみろと言わんばかりだった。
女は噛みタバコで一杯の口を、大きく開けて笑った。「白い娘をせっかく連れてきてくれたんだから、ぜひ私の小屋に連れて入ってほしいもんだねえ」
女たちの後ろから一人の男が現れ、私たちに近づいてきた。両腕を胸の前で組み、自信ありげに唇を少しつき出して、男は私の横に立った。「わしがモコトテリの首長だ」彼は言った。微笑むと目が細くなり、深く皺の寄った顔に描かれた赤い模様の間で、輝く二本の隙間となった。「白い娘とお前は姉妹同士で、お前が娘を守っている、そういうことか」彼はリティミに訊ねた。
「ええ」リティミは力強く答えた。「私たちは姉妹よ」
疑わしげに頭を振りながら、首長は私をためつすがめつ眺めたが、全く感心した様子はなかった。「この娘は確かに白いが、本物の白人女には見えんな」彼は言った。「裸足なのは我々と変わらんし、珍しい服を身につけているかと言えば、あるのはこいつだけだ」穴があき、ゆるんだ私の下着を、彼は引っ張った。「先住民族の帯の下にどうしてこんなものをはいておるんだ?」
「それはパンティイよ」リティミがおごそかに答えた。彼女はスペイン語も覚えていたが、英語の方を好んで使った。「白人たちはそれをそう呼ぶの。彼女はあと二枚同じ物を持ってるわ。夜には蜘蛛が、昼にはムカデが体の中に入り込むのを怖れて、彼女はパンティイを身につけているの」
私の怖れがよく分かるとでもいうようにうなずきながら、首長は私の短い髪に触れ、剃り上げた頭のてっぺんを肉づきのよい手のひらで撫でた。「アサイ椰子の若い葉の色をしておる」彼はゆっくりと顔を動かし、その鼻が私の鼻に触れるまで近づけた。「なんと変わった目をしておることか。こいつの目は雨の色をしておる」それまでの不機嫌さは消えて、満面の笑みがその顔に浮かんだ。「なるほど、白人に違いない。そしてお前が彼女を姉妹と呼ぶのなら、誰もこの娘をお前から引き離すことはできんな」
**142**「どうしてお前が、この娘を姉妹と呼べるっていうの?」私の腕を握り続けたままで、女がそう言った。私を見つめる女の、模様が描かれた顔は、困惑の色で一杯だった。
「私が彼女を姉妹と呼ぶのは、彼女も私たちと同じだと知っているから」リティミはそう言って、私の腰に腕を回した。
「私の小屋に来て、しばらく過ごしてもらえないかしら」女は言った。「私の子どもたちに触ってほしいから」
私たちは女のあとについて小屋の一つに入った。斜めの屋根には弓矢が立てかけてあり、屋根の垂木からはバナナと葉っぱでくるんだ肉の包みがぶら下げてある。マチェーテと斧、そして棍棒の一式は小屋の隅に置かれており、地面には小さな枝や大きな枝、果物の皮や土器の欠片が転がっていた。
リティミと私は同じ木綿のハンモックに腰を下ろした。女にもらった椰子の実のジュースを私が飲み終わると、女は早速私の膝に赤ん坊を置いた。「坊やを撫でてちょうだい」
私の腕の中で身をよじり、のたくって、赤ん坊は危うく地面に落ちるところだった。そして私の顔をじっと見ると、火がついたように大きな声で泣き始めた。
「あなたが抱いたほうがいい」女に赤ん坊を返しながら、私は言った。「赤ちゃんは私を怖がるから。まず私に慣れてからでないと、撫でてあげるわけにいかないわ」
「そうなの?」女は赤ん坊を抱いてあやしながら、リティミに訝しげな視線を送った。
「私たちの赤ちゃんは泣いたりしないし」リティミは赤ん坊を蔑みの眼差しで見た。「私の子どもや私の父の子どもは、彼女と同じハンモックで寝ることもするのよ」
「じゃ、大きな子どもたちを呼ぶわ」斜めの屋根に立てかけて積まれたプランテンの束の陰から、こちらを覗き見しているまだ小さな子どもたちを指差して、女はそう言った。
「やめたほうがいいわ」その子どもたちも怖がるに違いないと分かっていたので、私はそう言った。「無理に来させたら、その子たちも泣き出すわよ」
**143**「そうね」私たちのあとについて小屋に入ってきていた女のうちの一人が言った。「自分たちの母親が、白い娘の椰子の繊維のような髪の毛や青白い肌に触れてみせて、怖がることはないのが分かれば、子どもたちも一緒になって座るでしょうね」
数人の女たちが私たちの周りにやってきた。最初はためらいがちに、手で私に触りはじめ、まず顔、次に首、そして腕、胸、腹、太もも、膝、ふくらはぎ、つま先と順番に触れていった。私の体のうちで、触れられないままで残されたところはなかった。蚊に刺された跡や引っ掻き傷を見つけると、唾をかけ親指で擦ってくれ、刺されたばかりのところは毒を吸い出すことまでしてくれた。
リティミやトゥテミ、そしてイティコテリの子どもたちの豊かな愛情表現には慣れていたが、それはほんの短い時間のものだったし、なにしろあまりにもたくさんの手が私の体中を探り回るもので、私は居心地が悪くなってしまった。「彼らは何をしてるの?」隣の小屋の外で、男たちの一群がしゃがみ込んでいるのを指差して、私は聞いた。
「踊りのためのアサイの葉を準備してるところよ」私の膝に赤ん坊を置いた女が答えた。「見てみたい?」
「ええ、ぜひ」私は力強くそう言って、女たちが私から注意をそらしてくれればと願った。
「リティミは、あなたが行くところには、どこへでもついて行くの?」リティミが私と一緒にハンモックから立ち上がると、女はそう聞いた。
「ええ」私は言った。「彼女がいなかったら、私はこのシャボノに来てなかったでしょうね。私が初めて森に来たときから、リティミはずっと私の面倒を見てくれてるんだから」
リティミは満面の笑みで私を見てくれた。それがうまく効果が出るような表現であることを私は願った。幸いその後の滞在中、モコトテリの女の誰一人として、リティミの私に対する特権的な立場に対して、口を挟むものはいなかった。
小屋の外で男たちは、細い尖った棒を使って、若いアサイ椰子の、まだ開かない薄黄色をした葉を別々に分けていた。私たちが近づくと、男の一人がしゃがんだ姿勢から立ち上がった。男は噛みタバコの塊を口から取り出し、顎に流れた汁を手の甲で拭うと、椰子の葉を私の頭の上にかざした。そろそろ沈もうとしている日の光を背に、ようやく見えるか見えないかの細い金色の葉脈を私に示して、男は微笑んだ。男は私の髪に手を触れ、タバコの塊を口に戻すと、何も言わずに葉を分ける作業に戻った。
暗くなるとすぐに、広場の中央で火が焚かれた。イティコテリの男たちが、手には武器を持ち、火の周りにずらりと並ぶと、祭りの招き手から大きな歓声が上がった。男たちは一度に二人が組になって、広場を回りながら踊り、それぞれの小屋の前ではゆっくりと踊ることで、身につけた飾りと踊りの足並みが十分賞味できるようにした。
エテワとイラマモウェが取りを務めた。完璧なまでに息の合った二人の足並みに、観客の叫び声は高さを増した。二人は小屋を回ることはせず、焚き火に近いところでくるりくるりと回転して踊り、飛び散る炎のリズムに合わせ、次第に速さを増していった。エテワとイラマモウェの動きが急に止まった。顔の間近に弓と矢を垂直に構え、次に小屋の前に立っているモコトテリの男たちに狙いを定めた。そして大きな声で高笑いをすると二人は踊りを再開し、観客からは大きな称賛の叫びが上がった。
イティコテリの男たちは、ハンモックで休むように招き手の小屋に呼ばれた。彼らに食べ物が振る舞われている間に、モコトテリの男たちの一団が、広場にどっと走り出た。「ハイイ、ハイイイ、ハイイイイ」彼らは叫びながら、弓矢を打ち鳴らし、房飾りのついたアサイ椰子の葉を振って風切る音を立てながら踊った。
**145** 踊っている人間の姿はほとんど見分けがつかなかった。あるときには一つに溶け合い、次の瞬間には跳んで分かれ、揺れる椰子の葉の合間から、踊る手足や腕が切れ切れに見えた。踊り手が焚き火の灯りから遠ざかると、巨大な翼を持つ黒い鳥のような形になって、もはや人とも鳥ともつかず、炎に照らされると汗に濡れた体が赤銅色に輝くのだった。
「お前たちの女と踊らせてくれ」モコトテリの男たちが要求してきた。イティコテリの男が返事をしないので、彼らは嘲るように言った。「妬いてるのか? 女たちを踊らせてやらないなんて可哀想じゃないか。お前たちの祭りのときに、俺たちの女と踊らせてやったのを忘れたのか?」
「モコトテリの男と踊りたい者は、そうすればよい」イラマモウェは大きな声で言い、続けて男たちを脅すように言った。「ただし女が望まないのに無理強いするのは許さん」
「ハイイ、ハイイイ、ハイイイイ」男たちは喜びに震えながら叫び、自分たちの女と同様、イティコテリの女を踊りに誘った。
「踊りに行かないの?」私はリティミに聞いた。「一緒に行くよ」
「やめとく。人混みであなたとはぐれたら困るし」彼女は言った。「それに誰かがあなたの頭を打ちでもしたら大変」
「でもあれはたまたまでしょ。それにモコトテリは火のついた焚き木を持っては踊らないし」私は言った。「椰子の葉だけじゃ何もできないわよ」
リティミは肩をすくめた。「父も言ってたでしょ、モコトテリは信用ならない連中だって」
「祭りに招かれるのは友好関係にある人たちだけかと思ったけど」
「敵対関係にあっても招くのよ」リティミは笑いながら答えた。「よその人間が何をしようとしているのかを聞き出すのに、祭りはいい機会なんだから」
「モコトテリの人たちはとっても親切じゃない」私は言った。「たくさん振る舞ってくれるし」
「たくさん振る舞ってくれるのは、けちだって評判を立てられたくないってだけのこと」リティミは言った。「父が言ってた通り、あなた、まだまだ分かってないのね。モコトテリが親切だと思ってるってことは、今何が起きてるのかも、ちっとも分かってないってことだもんね」リティミは、私が子どもであるかのように私の頭を軽く叩き、言葉を続けた。「イティコテリの男たちが、今日の午後はエペナを摂ってないのには気がついた? 彼らがどれだけ用心深く振る舞ってるか分かる?」
**146** 私はそうしたことには気がついていなかった。しかし、イティコテリの人たちの振る舞いが友好的とは言えないものであると思っていたことは言っておきたかったが、何も言わないでおいた。結局のところ、リティミが指摘した通りで、私には何にも分かっていなかったのだ。焚き火の周りで踊る六人のイティコテリの男を、私はよく見てみた。彼らの動きはいつもの奔放なものではなく、絶えず視線を動かしながら、周りで起きていることを観察していた。他の男たちも、招き手のハンモックでくつろぐことはせず、小屋の外に立って時を過ごしていた。
踊りに感じていた魅力は急に色褪せてしまい、人々の影や声にも嫌な気配を感じた。夜は今や不吉な予兆の暗闇で満たされていた。しばらく前に配られた食べ物を私は食べ始めた。「この肉、苦い」毒でも盛ってあるのだろうかと思いながら、私は言った。
「苦いのはマムコリのせいよ」リティミが当たり前という調子で言った。「毒矢が猿に当たったところをよく洗ってないのね」
私は肉を吐き出した。毒にやられるのも怖かったが、背の高いアルミの鍋の中を見たとき、脂の膜ができ、毛が浮いた中で茹でられていた猿を思い出して、気持ちが悪くなったのだ。
リティミはその肉を私のひょうたんの皿に戻した。「食べなよ」そう言って私に勧めた。「苦くっても体にいいんだから。そうやって毒に体が慣れていくの。父親が息子に、矢が当たった部分を食べさせてるのを知らない? 体がマムコリに慣れれば、襲撃があって毒矢で射られても死なないで済むのよ」
「毒矢に射られる前に、毒入りの肉で死んじゃいそう」
**147**「だいじょうぶ、マムコリを食べて死ぬことはないから」リティミは私に受け合った。「皮膚を通さない限り毒は効かないの」リティミは、私のひょうたんから食べかけの肉を取ると、半分をかじって食べ、残りの半分を私がぽかんと開けていた口の中に放り込んだ。そして、いたずらっぽい笑みを浮かべると、自分の皿と私の皿を取り替えた。「あなたが喉を詰まらせたら大変だからね」そう言うと、残りの猿の胸肉を、さも美味しそうに食べ始めた。口をもぐもぐと動かしながら、彼女は広場の方を指差して、焚き火の近くで踊っている丸顔の女が見えるかと聞いた。
私はうなずいたが、どの女のことを言っているのかは分からなかった。焚き火のそばでは十人ほどの女が踊っていたが、みな丸顔だった。釣り上がった黒い目をして、豊満な体は炎に照らされて、蜂蜜色に輝いていた。
「あれが私たちの祭りのときにエテワと寝た女よ」リティミは言った。「呪いの魔法をかけてやったわ」
「いつやったの?」
「今日の午後よ」リティミはそっと言うと、静かに笑った。「畑で取っておいたオコシキの煙を、彼女のハンモックに吹きかけてやったの」彼女は満足げにそうつけ加えた。
「他の誰かが彼女のハンモックに座ったら?」
「別に大丈夫。呪いは彼女に対してだけ効くようになってるから」リティミは私に受け合った。
呪いの魔法について、それ以上は聞くことはできなかった。ちょうど踊りが終わり、踊り疲れた者たちが、笑いながらそれぞれの小屋に戻り、休んだり食事をしたりし始めたからだ。
私たちがいる囲炉裏の周りにやってきた女たちは、リティミと私が踊らなかったと知ると、とても驚いた。体にオノトで模様を描くのと同様、踊りを踊ることも重要なことであり、踊ることで人々は若さを保ち、幸せでいることができると考えられていたからだ。
少しすると首長が広場に進み出て、轟くような声で申し述べた。「イティコテリの女たちの歌を聴いてみたいものだ。素晴らしい歌声には、わしの耳も喜ぶことだろう。我々の女にも、その歌を教えてほしい」
くすくす笑いながら、女たちは互いに突っつき合った。「リティミ、行きなさいよ」イラマモウェの妻の一人が言った。「行ってきれいな歌声を聴かせてあげなさいよ」
リティミを勇気づけるのには、その言葉で十分だった。「じゃあ、みんなで一緒に行こう」そう言うと彼女は立ち上がった。
**148** 腕を互いの腰に回しながら、私たちが広場に進み出ていくと、シャボノ全体が静まり返った。首長の小屋に向かって、リティミが澄んだメロディアスな声で歌い始めた。歌はとても短いもので、終わりの二行は残りの女たちがコーラスで繰り返した。他の女たちも歌ったが、モコトテリの首長が、自分たちの女が覚えられるように繰り返し歌うように求めたのは、何と言ってもリティミの歌だった。

風がやさしく椰子の葉をなでる
口を閉ざした蛙たちとともにその物憂い音に私は耳を澄ます
空高く星々は笑っている
けれど雲が空を覆い悲しみの涙が落ちてくる

首長が私たちの方にやってきて、私に対して言った。「さあ、今度はお前が歌う番だ」
「私は歌えないわ」笑いを抑えきれずに、私は言った。
「少しは歌えるだろう」首長は諦めなかった。「白人がどれだけ歌が好きか、話に聞いておる。歌う箱まで持っているとな」
カラカスの学校で三年生のとき、私は音楽の先生から、声がひどいだけでなく、全くの音痴だとまで言われたことがあった。けれどハンス教授は--彼はそう呼ばれることを好んでいたのだが--私の歌いたいという気持ちには応えてくれ、一番後ろの列で小さい声で歌うことを条件に、授業に出ることを認めてくれた。ハンス教授は、私たちが習うはずだった宗教の歌や民謡については無頓着で、三十年代のアルゼンチン・タンゴを私たちに教えてくれた。このときに習った歌はよく覚えていた。
自分の周りの期待に満ちた人々の顔を眺めながら、私は焚き火の方に歩み出た。そして、私は咳払いをすると、自分の発する調子外れの音程のことはすっかり忘れて、歌い始めた。束の間、ハンス教授がタンゴを歌うときの情熱的な歌い方を、自分は忠実に再現している気がした。私は両手の拳を胸の前で握りしめ、一節一節の悲しさと悲劇性によって、自分がどこかに連れ去られるかのような気持ちで目を閉じた。
聴衆は呪文をかけられたかのように静まり返っていた。モコトテリもイティコテリも皆が小屋から出てきて、私の一挙手一投足に見入った。
**149** 首長は長い間私を見つめたままでいたが、ようやく口を開くと言った。「我々の女には、この不思議な歌い方は覚えられそうにないな」
そのあとは男たちが歌った。広場の中央に一人ずつ立つと、体の前に立てた弓の上に両手を置いて、男たちは歌った。友だちが歌い手に付き添うこともあり、その場合は、男は連れの肩に腕をまわして歌った。モコトテリの若者の一人が歌った歌が、その晩のお気に入りとなった。

一匹の猿が木から木へと跳ぶ
俺はそいつを弓矢で射る
ただ緑の葉が落ちてくるばかりで
くるくると舞っては足元に降り積もる

イティコテリの男たちは、夜通し招き手と話し、歌い、ハンモックで横になることはなかった。シャボノの正面の入り口に近い空いた小屋で、他の女や子どもと一緒に私は眠った。
翌朝、私はパパイヤとパイナップルで腹を満たした。モコトテリの少女の一人が、自分の父親の畑から取ってきてくれたものだ。リティミと私は、薮に用を足しに行ったときにその果物を見つけていた。リティミはその果物を食べたいと言わないほうがいいと言ったが、それは礼儀に適わないからではなくて、まだ実が熟していなかったからだった。けれど私は、その酸っぱい味にも、食べたあとの幾分の腹痛にも不満はなかった。バナナや椰子の実は私にとって野菜のようなもので、なじみのある果物はもう何ヶ月も食べていなかったからだ。
「きみの歌声はなんとも凄かったな」私の横にしゃがみ込んで、若い男が言った。「オホー、歌の意味は分からなかったけれど、まったくひどい響きだったよ」
言葉もなく、私はその男を睨んだ。笑ったらいいのか、それとも罵詈雑言を返すべきなのか分からなかったのだ。
リティミが腕を私の首に巻きつけると、大声で笑いだした。そして首をかしげて私を見ると、耳元で囁いた。「あなたが歌ってるのを聞いて、猿の肉でお腹が痛くなったのかと思った」
イティコテリとモコトテリの男たちの一団が、昨晩話を始めたときと同じ場所にしゃがみ込んだままで、ワヤモウのやり方に適った儀礼的な様式の話し方で、会話を続けていた。物々交換は時間のかかる混み入ったやりとりであり、交易の品々に対するのと同じだけの重みが、そこで交わされる情報と噂話にも置かれるのだった。
昼近くのことだった。自分たちの男が交換した物のことで、モコトテリの女の幾人かが文句を言い始めた。マチェーテもアルミの鍋も、それに木綿のハンモックも、みな自分たちに必要なものだと言うのだ。「毒を塗った矢尻だって!」女の一人が怒って大声を上げた。「そんなもの、怠けてなければ自分たちで作れただろうに」しかし、女の言葉など耳に入らないという様子で、男たちは交渉を続けていた。

☆続きはこちらです。
[第13回]

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