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2018年2月13日火曜日

13 フロリンダ・ドナー「シャボノ」 -- アマゾンの奥地・ヤノマミ族の暮らし


ここに翻訳を掲載している「シャボノ」は、アメリカのカリフォルニア大学ロスアンゼルス校で文化人類学を専攻した女性作家フロリンダ・ドナーが、アマゾン奥地の先住民族ヤノマミの暮らしを描いたノンフィクションです。

ドナーは、メキシコの呪術師の世界を描いた「ドン・ファン・シリーズ」で知られるカルロス・カスタネダの呪術師仲間でもあり、この「シャボノ」に
おいても、幻覚性植物の摂取による変性意識体験や、シャーマニズムの奥深い世界観が興味深く語られます。

また、ヤノマミの人々は、NHKの番組から劇場公開された「ヤノマミ~奥アマゾン-原初の森に生きる~-劇場版」でも描かれるように、嬰児殺しの風習をもつことで知られます。

第13回目の今回は、隣り村での祭りからの帰り道、森の中で自然の神秘に打たれ、ヤノマミの人たちと暮らすことの幸せの意味を知った作者の情感が美しく描かれます。

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フロリンダ・ドナー「シャボノ」那賀乃とし兵衛訳、第13回
Frolinda Donner "Shabono" 1982 a Laurel Book
[今回は、四百字詰め原稿用紙35枚ほどの分量です]

☆この作品の簡単な紹介はこちらにあります。
[本の紹介: フロリンダ・ドナー「シャボノ」]

☆第1回〜第12回はこちらです。
[第1回] | [第2回] | [第3回] | [第4回] | [第5回] | [第6回] | [第7回] | [第8回] | [第9回] | [第10回] | [第11回] | [第12回]

[この試訳は編集中のものですが、ネット上で公開することにより、多くの方からのご意見をいただけたらと考え、こちらに置くことにします]

それでは、どうぞお楽しみください。

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第3部
**151**
13
私たちがモコトテリの村をあとにしたのは、昼過ぎのことだった。帰路につく客に対する土産としてもらった、いつもお馴染みのプランテン、椰子の実、肉で、私たちの籠は一杯だった。
夜闇が迫る頃、モコトテリの男が三人、私たちを追ってやってきた。男の一人が、弓を持ち上げながら言った。「首長は白い娘が我々のところに留まることを望んでいる」矢の軸を引いて私に狙いをつけながら、男は私を見つめた。
「女に矢を向けるなど、臆病者のすることだ」イラマモウェが私の前に進み出ると言った。「打ってみろ、役立たずのモコトテリが!」
「我々は戦いに来たわけではない」男はそう説明しながら、弓矢を垂直の位置に構え直した。「戦うつもりなら、もう少し前の時点で待ち伏せすることもできたのだ。白い娘を脅して、我々と共に来させるのが望みだ」
「お前たちの所に彼女が住まうことはありえん」イラマモウェは言った。「ミラグロスは彼女を我々のシャボノに連れてきたのだ。お前たちのところに住まわせるつもりなら、お前たちの村に連れていったろう」
「我々と一緒に彼女に来てもらうのが望みなのだ」男は譲らなかった。「雨期になる前には、必ず娘をお前たちのところに戻す」
**152**「俺を怒らせてみろ、この場でお前らを殺してやる」イラマモウェは胸を力強く何度も叩いた。「臆病者のモコトテリめ、俺が容赦知らずの戦士であるのを忘れるなよ。俺の胸のへクラたちは、たとえエペナがなくても、いつでも俺の思いのままだからな」イラマモウェは三人の男に歩み寄って言った。「白い娘はイティコテリのものなのが、まだ分からんか?」
「どこに住みたいか、彼女に聞いたらいいではないか」男は言った。「彼女は我々のことを気に入っている。我々のところで暮らすことを望むかもしれん」
イラマモウェは笑い出した。低い声で笑い続ける様子は、面白がっているのか、怒り狂っているのか、見分けがつかなかった。そして、急に笑うのをやめると言った。「白い娘はモコトテリの見栄えが気に入らんと言っておる。お前たちはみんな猿のようだと言ってな」イラマモウェは私の方を向いた。うまく答えてくれと言わんばかりの彼の真剣な表情に、私は笑いを抑えるのに精一杯だった。
三人のモコトテリの当惑した顔を見ると、私は申し訳ないような気持ちになり、束の間イラマモウェの言葉を否定したい誘惑に駆られた。けれど、彼の怒りを無視するわけにはいかなかったし、私が祭りに参加することについてのアラスウェの懸念についても忘れたわけではなかった。私は腕を胸の前で組み、顎を上げると、男たちを直接見ることはせずに言った。「お前たちの村に行く気はない。猿と一緒に食べたり寝たりはしたくないからな」
イティコテリの者たちは高らかな笑い声を上げた。三人の男は急に向こうを向くと、薮へと続く道に姿を消した。
私たちは川からそれほど遠くない森の中の開けた場所に、野営地を定めた。間に合わせの小屋がまだ立っており、カモシウェ老人がその晩は雨は降らないと受け合ったので、新しい葉で屋根を葺くことはしなかった。
イラマモウェは食事はせず、焚き火の前に座り込んで、真剣に考え込んでいる様子だった。三人の男が今にも再び姿を現すことを、予期しているかのような緊張感を、彼は発していた。
「モコトテリの男たちは戻ってくるのかしら?」私は聞いた。
**153**「やつらは臆病者だ。戻ってくれば、その場で俺の矢で死ぬことになるのを承知しておるわ」唇をきっと結んで、彼はじっと地面を見ていた。「我々のシャボノまで戻るのに、一番いい方法を考えておってな」
「二手に分かれるのがいいじゃろう」カモシウェ老人が、その一つだけの目で私を見ながら提案した。「今日は月がない。モコトテリたちはやって来んだろう。たぶん明日にでも、また白い娘を寄こせと言ってくるじゃろうから、娘は奴らに怯えて、布教所に連れ帰るように頼まれたと言えばいい」
「彼女を布教所に戻しちゃうの?」不安に満ちたリティミの声が、暗闇に響いた。
「いや」老人は楽しそうに言った。あごに生えた短い灰色の髭、何一つ見逃さない一つだけの目、そして少しだけ皺を帯びた体が相まって、その姿はまるでいたずら好きな小人の妖精のようだった。「リティミと白い娘と一緒に、エテワには山の道を行ってもらう。遠回りにはなるが、子どもや年寄りのためにゆっくり歩く必要はない。我々より一日か二日遅れで村に着けるだろう」カモシウェ老人は立ち上がると、空気の匂いを嗅いだ。「明日は雨が降る。夜は小屋をかけるがいい」エテワにそう言うと、老人はしゃがみ込みながら、口元に笑みを浮かべ、落ち窪んだ一つの目で私を見た。「シャボノに戻るのに、山の道を行くのは怖いかな?」
微笑みながら私は首を振った。どういうわけか、自分が本当に危険な状況に落ち入るとは思えなかったのだ。
「モコトテリに矢で狙われたときは、恐ろしかったかな?」カモシウェ老人が聞いた。
「いいえ。イティコテリのみんなが守ってくれるって分かっていたから」その事件を、恐ろしく思うよりは滑稽に感じていたということは、かろうじて言わずにおいた。はっきりした駆引きや、状況の危うさを見ていたにもかかわらず、モコトテリとイティコテリの間の脅しや要求が、全く真剣なものだったということが、そのときの私にはよく分かっていなかったのだ。
**154** 老カモシウェは私の答えを聞いて喜んでくれた。私が怖がらなかったという事実よりも、イティコテリの人々を私が信頼していることに満足してくれたのだろうと私は思った。老人はその夜、遅くまでエテワと話をしていた。リティミは、口元にこれ以上ないと思われるほどの幸せそうな笑みを浮かべ、私の手を握ったまま眠ってしまった。夢を見る彼女の様子を見ながら、私には彼女がどうしてそんなに幸せそうなのか分かっていた。というのも、彼女はこれから何日かの間、エテワを実質的に一人占めにできるのだから。
シャボノの中では、男が自分の妻に表立って愛情を示すことはまずなかった。そうした振る舞いは弱さと見なされたからである。子どもたちに対してならば、男も開け広げに優しさを表現した。キスをしたり撫でたり、甘やかすこともいくらでもした。エテワや、あの恐ろしいイラマモウェですら、自分の妻のために重い焚き木を運んでやっているのを見たことがある。けれど、シャボノに近づくや否や、その荷を降ろしてしまうのだ。また、近くに他の男がいないときには、リティミやトゥテミのために特別に、エテワが肉や果物を取っておくのを見たこともあった。夜の暗闇の中、エテワがトゥテミの腹に耳を当て、まだ生まれぬ自分の子が、力強く蹴る音に聞き入っているのを見たこともある。けれども、他の者がいるところでは、もうじき自分に子どもが生まれることなど、口に出したりはしないのだ。

夜明けの数時間前に、リティミと私はエテワに起こされた。私たちは静かに野営地をあとにし、砂地の川岸を歩いた。ハンモックと少しのプランテン、それからモコトテリの少女がくれたパイナップル三つのほかは、私たちの籠には何も入っていなかった。カモシウェ老人は、獲物はいくらでもいるとエテワに受け合った。月はなかったが、夜空の微かな明かりを水面が黒く映していた。夜行性の鳥の羽ばたきが時折り静寂を破り、微かに聞こえる鳥の一鳴きが、やがて来る夜明けの前触れを告げた。一つ、また一つと星が消えていき、薔薇色の朝焼けの光が私たちの足元の影にまで至る頃には、木々の姿もはっきりと見えてきた。**155**川の雄大な広さと、滔々と流れる水の静けさに、私は心打たれた。あまりにも静かなので、まったく流れていないようにしか見えなかった。三羽のコンゴウインコが三角形の形を保って飛んでいき、動きのない雲を赤、青、黄色の羽根で彩った。茜色に輝く太陽が、梢の上に姿を現した。
エテワが、胸の奥底から上がってきたかのような大あくびをして、目を細めた。寝不足の目には朝日が眩しすぎたのだ。
私たちは、籠の紐をほどくと荷を下ろした。リティミと私は丸太に腰かけ、エテワが弓を引くのを眺めた。ゆっくりと両腕を上げていき、背をそらし、矢の狙いを宙高く定めた。動きを止め、長い時間立ちつくすその姿は、張り詰めた筋肉の一筋一筋までが精密に彫られた石像のようで、視線は空を渡る鳥たちをしっかりと見据えていた。一体いつになったら矢を放つのかと、私はわざわざ聞くことはしなかった。
矢が風を切る音は聞こえなかった。鳥の短い声が聞こえたかと思うと、すぐに羽根をばたつかせる音でかき消された。コンゴウインコは、赤く染まった矢で束ねられた羽根の塊のような姿となって、束の間宙に留まり、エテワからそう遠くない場所にどさりと落ちた。
エテワが火を起こし、プランテンを少しと、羽根をむしった鳥をその火で焼いた。彼は少ししか食べず、残りは私たちが食べるようにと言った。山を越える険しい道に備えて、力をつけておけと言うのだった。
私たちは薮の中へと道を進んだが、川沿いの道を照らす太陽が恋しいというようなことはなかった。蔓と木がつくる日影は、私たちの疲れた目に優しかった。枯れて色の変わった木の葉が、緑一色の背景の中、あちことに咲く花のように見えた。エテワが、黒っぽい色をした野生のカカオの木から枝を切って取った。「この木から作る火起こし用のきりは最高なのさ」そう言って彼は、枝の皮を鋭いナイフでこそげた。ナイフはアグーティの下顎の前歯から作ったものだった。それから彼は、育ちの悪いカカオの幹から、葉のない短い枝の先に一つずつついている、緑と黄色と紫の実をいくつか切り取った。彼がその実を割って開けると、私たちは種の周りのゼリー状の果肉をすすった。種は葉でくるんで取りおいた。**156**「火を通すとね」リティミが説明してくれた。「ポホロの種はとってもおいしいの」チョコレートのような味がするのだろうかと、私は考えた。
「猿とイタチが近くにいるな」エテワがそう言って、地面に散らばる噛みしだかれた果実の皮を示した。「俺たち同様やつらもポホロの実が好物なのさ」
少し行くと、エテワはよじれた蔓の前で立ち止まり、ナイフで印をつけた。「マムコリだ」彼は言った。「新しい毒が必要なときは、ここに来ればいい」
「アシュカマキなの?」幹にみっしりと、蝋のようにてかてか光る葉を茂らせた木の下で立ち止まったので、私は興奮して大きな声を出した。けれど、それはクラレを作るときに使う、粘りを出すための蔓植物ではなかった。葉っぱが長くてぎざぎざしていることをエテワは指摘した。彼が立ち止まったのは、地面に色々な獣の骨が散らばっていたからだった。
「ハーピー・イーグルだ」彼は言うと、木のてっぺんの巣を示した。
「その鳥は殺さないで」リティミが懇願した。「きっと亡くなったイティコテリの誰かの霊だから」
妻には答えず、エテワは木に登り、巣にたどり着くと鳴き声を上げる白いぽわぽわした羽毛のひな鳥をつかみ出した。エテワがひなを地面に投げると、母鳥の大きな鳴き声が何度も響いた。彼は幹と枝で体をしっかり支えると、旋回する鳥に矢で狙いを定めた。
「鳥が仕留められてよかった」エテワは言うと、木々の間を抜けて鳥が落ちた場所まで、自分についてくるように身振りで示した。「この鳥は肉しか食わない」彼はリティミに向き直ると、穏やかに言った。「矢を向ける前に鳥の声をよく聞いた。霊の声ではなかったよ」彼は鳥の胸から白くて柔らかい羽根を抜き、翼からは長い灰色の羽根を取って、木の葉で包んだ。
**157** 木々の葉の間を抜けて降りてくる午後の熱気で、私はどうにも眠くなり、とにかく寝てしまいたいという気持ちで一杯だった。リティミの目の下には隈ができ、柔らかい肌に炭でもはたいたかのようだった。エテワの足取りも遅くなった。何も言わずに、彼は川に向かった。熱と光の中で宙吊りになったかのように、私たちは微動だにせず、幅の広い川の浅い水の中に立った。水に映る雲と木々をしばらく眺めてから、私たちは中洲の赤茶色の砂の上に寝転んだ。水に浸かった根から出るタンニンが、水の色を青から緑、そして赤へと変化させていた。一枚の木の葉も揺れず、一つの雲も動かなかった。川面でホバリングをしているトンボたちも、透明な羽を羽ばたかせながら、じっと動かないままでいた。私は腹這いになって、両手を水面に沿って平らに伸ばした。川に映る鏡像と空の輝きの二つを統べる、動きのないハーモニーを、両手でつかまえたかったのだ。そして、腹這いのまま、唇が水面に触れられるまで川に近づくと、水に映る雲を飲み込んだ。
わたしたちが川に着いたときに飛び立った、二羽のサギが戻ってきた。いつでも飛び立てるように長い足で立ち、首を羽毛の間にうずめると、半分閉じた目を瞬きさせながら、私たちのほうを見た。水の上で空気を揺らす、酔いを誘うような熱気を見やっていると、銀色のものが空中に跳ね上がるのが見えた。「魚よ」そう叫んだ途端、わたしの中の異常なまでの眠気は吹っ飛んでしまった。
エテワは静かに笑うと、さえずりながら空を渡るオウムの群れを、手に持った矢で示した。「鳥だ」彼は大きな声でそう言うと、背中の矢筒に手を伸ばした。矢尻を手に取り、舌の先でなめて、毒の効き目を確かめた。そして、毒の苦さに満足すると、矢軸にその鋭い矢尻を結びつけた。次に彼は、弦を引いて弓の具合を見た。「張りが甘い」そう言うと、弦の一方をほどいた。そして、何回か弦をよじると、再び弓に結んだ。「今晩はここで過ごそう」それだけ言うとエテワは、川の中へ入っていき、向こう岸に上がると、木々の間に姿を消した。
リティミとわたしは中洲の砂地に留まった。リティミは包みから鳥の羽を取り出すと、石の上に広げた。日に当ててシラミを殺すのだ。**158**大喜びの彼女が中洲に生える一本の木を指さした。その木には、青白い色をした花の房が、果物のようにぶらさがっていた。彼女はその花を枝ごと切り取ると、わたしに食べるようにと差し出した。私が食べたがらないのを見て、「甘いんだよ」と教えてくれた。
その花の匂いは強すぎて石鹸を思わせるのだと説明しようとしているうちに、私は眠ってしまっていた。目が覚めたときには、昼の光をどこかに払いのけてしまうような夕暮れ時の音がしていた。そよ風が、木々の熱を冷ましながら、さやさやと音を立て、夜の訪れに寝床を定める鳥たちが、互いに呼び交わす鳴き声が聞こえた。
二羽のホウカンチョウと椰子の葉の束を抱えて、エテワが戻ってきた。わたしはリティミと一緒に、川沿いで焚き木を集めた。リティミが鳥の羽根をむしる間には、エテワが小屋掛けするのを手伝った。
「本当に降ると思う?」晴れ上がり、雲一つない空を見ながら、私は聞いた。
「カモシウェのじいさんが言ったんだから降るさ」エテワは言った。「他の人間が食べ物を嗅ぎつけるように、じいさんは雨を嗅ぎつけるのさ」
小さいが快適な小屋ができ上がった。正面の柱は、後ろ側の二本の柱よりは高かったが、立つことができるほどではなかった。柱同士は長い棒でつながれ、仮小屋は三角形をしていた。屋根と後ろ側は椰子の葉で葺かれた。三人分のハンモックを吊るほどには柱は丈夫でなかったので、地面をプラタニージョの葉で覆って眠れるようにした。
エテワが小屋をそんなに立派に作ったのは、リティミや私の快適さのためではなく、まして自分の快適さのためでもなかった。彼が雨に濡れると、トゥテミのお腹の赤ちゃんに、死産や奇形が生じる恐れがあるからなのだった。
エテワが小屋の中で起こした焚き火の上で、リティミは、二羽の鳥とプランテンを何本か、そしてカカオの実に火を通した。私はパイナップルの一つを潰した。混ざり合った味と歯ざわりは、感謝祭のご馳走を思わせた。
**159**「モモの実に似てるかも」私がクランベリーソースの説明をすると、リティミが言った。「モモも赤くてね、柔らかくなるまで長く煮るんだ。あと、毒が抜けるまでよく水に晒さないといけなくて」
「モモは好きじゃないだろうな」
「きっと気に入るって」リティミは受け合った。「ポホロの実がそれだけ好きなんだから。モモの実はもっと苦いんだよ」
微笑みながら、私はうなずいた。煎ったカカオの実は、チョコレートを思わせる味ではなかったが、新鮮なカシューナッツのようでとてもおいしかった。
エテワとリティミは、プラタニージョの葉の上に横になったと思ったら、もう眠っていた。私もリティミの隣で体を伸ばした。リティミは眠ったまま私の方に手を伸ばし、私を抱くと近くに引き寄せた。リティミの体の温もりで、私は心地良い気だるさに満たされ、彼女の規則正しい呼吸を聞くうちに、うとうととし始めた。連続した夢のような映像が、私の頭の中を流れていった。ときにはゆっくり、ときには速く、誰かが私の目の前に映像を投影しているかのようだった。私の後ろをモコトテリの男たちが、手で木の枝につかまり、木から木へと渡っていった。その叫び声はホエザルのものと区別がつかなかった。水面にほとんど体を出さずに浮かぶ、光り輝く目をしたワニたちが、眠たげに瞬きをしていたかと思うと、次の瞬間には、私を飲み込もうと巨大な顎を開いた。べとついた鞭のような舌を持つアリクイたちが、無数の泡を吹き出した。幾千もの蟻とともに、自分がその泡の中に捕らわれるのを、私は目撃した。
突然の一陣の風で、私は眠りから目が覚めた。風とともに雨の匂いがした。私は地面に座って、椰子の葉を打つ大きな雨粒の音に聞き入った。聞き慣れたコオロギと蛙の声が、絶え間なく波打つように聞こえてくるのを背景に、夜行性の猿の悲しげな叫びと、横笛を思わせるヤマウズラの鳴き声が聞こえた。何ものかの足音が確かに聞こえたと思った次の瞬間、小枝が踏まれて折れる音がした。
「誰か外にいるわ」私はエテワに近づきながら言った。
エテワは小屋の正面の柱の方に位置を変えた。「ジャガーが沼の蛙を探してる」エテワが私の頭を少し左の方に向けた。「においで分かるはずだ」
**160** 私は繰り返し空気のにおいを嗅いだ。「何もにおわないけど」
「におうのはジャガーの息なんだ。なんでも生で食べるから、においがきつくなる」エテワがもう一度わたしの頭の向きを変えた。今度は右だった。「ほら、よく聞いて。森に戻っていくぞ」
私は再び横になった。リティミが目を覚まして、眠い目をこすりながら微笑んだ。「夢を見たの。山道を登っていくと、滝があったわ」
「それは明日行く道だ」エテワはそう言うと、首に巻いたエペナの包みをほどいて開けた。そして粉をいくらか手のひらの上に取り、一息に鼻で吸い込んだ。
「今からヘクラたちにお祈りをするの?」
「森の精霊たちが我々を守ってくれるように、祈るのさ」エテワはそう言うと、低い声で唱いを始めた。彼の歌は、夜風に乗り、闇を越えてどこまでも伝わっていくかのようだった。その歌は確かに、大地の四方に住む精霊たちに届いたに違いない。焚き火は燃え尽きて、赤い熾き火だけが残った。エテワの声はもう聞こえなかったが、唇は動き続けている。私は夢のない眠りに落ちていった。
少しして私は、リティミの小さなうめき声で目が覚めた。悪い夢でも見ているのだろうと思って、私は彼女の肩に手を触れた。
「あなたも試してみる?」リティミが囁いた。
驚いて目を開けると、エテワの微笑む顔が目に入った。二人は愛を交わしていたのだ。私はしばらく二人を見守った。二人の体の動きは、ぴったりと合っているので、ほとんど動きが感じられないほどだった。
エテワは少しも気まずい様子は見せず、リティミから離れると、私の前に膝まづいた。そして、私の足を持ち上げると、少しだけ伸ばした。両足のふくらはぎに彼の頬が触れた。子どもが遊びながら撫でるような感じで、彼は私に触った。抱き合うこともなく、言葉もなかったけれど、私は優しさで満たされた。
**161** エテワは再びリティミのところに戻り、彼女と私の肩の間に頭を休めた。
「これで私たち本当の姉妹ね」リティミが優しく言った。「外側は同じに見えなくても、内側は同じになったんだから」
私はリティミに寄り添って寝た。川風が、私たちをなでるように、小屋を通り抜けていった。

夜明けの薔薇色の光が、木々の梢の上に優しく降りてくると、リティミとエテワは川に向かった。私は小屋から出ると、朝の新しい空気を深く吸った。夜明けのころには、森の闇はすでに漆黒ではなく、青みを帯びた緑色をしていた。地下の洞窟が、隠れたひび割れからの光で照らされているかのような色だった。木の葉やつるをかき分けて進む私の顔を、朝露のしぶきが小糠雨のように濡らした。細長い足をした赤い小さな蜘蛛たちが、忙しそうに銀色の巣を直していた。
エテワが木のうろに蜂の巣を見つけた。三人で最後の一滴まで舐め尽くしたあと、エテワが水を入れたひょうたんの中に巣を漬けた。そうしてできた甘い水も、あとでみんなで飲んだ。
私たちは、草木の生い茂った道を登った。道沿いには小さな滝と急流がいくつも続き、めまいがするほどの速さの水流が風を起こし、私たちの髪をなびかせ、岸の竹やぶをしならせた。
「夢に見たとおりね」リティミはそう言うと、私たちの目の前で、深くて広い滝壺になだれ落ちる巨大な水塊を抱きしめようとするかのように、両手を前に伸ばした。
滝の周りに突き出す黒い玄武岩の上に、私はそろそろと歩いていった。高みは太陽によってすでに暖まっていて、そこから落ちてくる水流の、怒涛の力を遮ろうとするかのように、私はその下で、長い間両腕を上げて立っていた。
「そこを離れるんだ、白い娘」エテワが叫んだ。「なだれる水の精霊たちが、きみを病気にしちまうぞ」
**162** 午後も遅くなって、野生のバナナが作る茂みの脇に、私たちは野営地を定めた。バナナの木に混じって、アボカドが一本生えているのを、私は見つけた。実が一つだけなっている。洋梨形ではなく、丸くて、大きさはマスクメロンほどもあるその実は、ロウで作られたかのようにてかてかと光っていた。最初の枝に届くようにエテワが私を持ち上げてくれ、そのあとはゆっくりと、一番高い枝の先になっている実を目指して、私は登っていった。その丸い緑の実を手に入れたいという思いがあまりに強かったので、足元の枝が私の体重でみしりと音を立てているのを無視して、私は実に手を伸ばした。つかんだ実を自分の方に引っ張ると、足元の枝が折れた。
エテワは涙が頬を流れるほどに大笑いをした。リティミも笑っていたが、私の腹と太ももから、潰れたアボカドをこそげてくれた。
「怪我をするところだったのに」面白がっているだけで、ちっとも心配してくれない二人に、腹を立てて私は言った。「足を折ったかもしれない」
「いや、そんなことないさ」エテワが受け合った。「地面は落ち葉で柔らかいからね」潰れたアボカドを手にすくうと、私に味見するよう促した。「滝の下にいるなって言ったろう」彼は真顔で付け加えた。「なだれる水の精霊たちのせいで、枯れ枝の危なさが分からなくなっちまったのさ」
エテワが仮小屋を仕上げるころには、昼の光は跡形もなく消え去っていた。森じゅうが白い霧でいっぱいだった。雨こそ降らなかったが、木の葉に少しでも触れようものなら、葉の上の夜露が重い雫となって落ちた。
私たちはプラタニージョの葉の上で、互いの体の温もりと、小さく起こした焚き火の火から暖を取って寝た。エテワは夜通し定期的に、火にくべた焚き木を足で押して炎のそばに寄せ、焚き火が絶えないようにした。
私たちは夜明け前に野営地を出た。濃い霧がまだ木々を覆っており、蛙の鳴き声はどこか遠いところから聞こえてくるかのようだった。高く登るにつれて植生は少なくなり、やがて草と岩だけの世界になった。
**163** ついに台地のてっぺんに辿り着いた。風と雨に侵食された、時代から取り残されたような場所だった。眼下には森が、まだ霧のベールの下で眠っている。一本の道も通らない、神秘をたたえたその世界は、外側からはうかがい知ることができない。私たちは地面に座り、日が昇るのを静かに待った。
地平線に沿って東の空が、赤と紫に染まり始めると、わたしは圧倒的な畏怖の念に打たれて立ち上がった。雲が風に従い、昇り来る太陽に道を開けた。桃色の霞が、木々の梢を撫でて渡った。そして、藍色が影を彩り、緑と黄色が空全体を染め上げていき、やがて透明な青へと色を変えていった。
私は振り返って西の空を見た。雲が形を変えながら、広がっていく光に道を譲っている。南の方角では、燃えるような赤い筋が空に引かれ、雲が風に押し流されて、幾重にもなって輝いていた。
「俺たちのシャボノは向こうだ」遠くを指さしてエテワが言った。そして私の腕をつかむと、私を北の方に向かせた。「そして向こうには白人が行き来する大いなる川がある」
太陽が霧のベールを取った。川は金色の蛇のように輝いて見えた。緑の大地を切り裂き、別の世界に通じる濃密な空間の彼方へと、その尾を伸ばし姿を消していた。
私は何か喋りたかった。大声で叫び出したかった。けれども自分の気持を表す言葉は見当たらなかった。リティミとエテワを見ると、私が今どれだけ深く感じているかを、二人が分かってくれているのが伝わってきた。この驚くべき森と空の境界を抱きしめたくて、私は両腕を体の前に伸ばした。自分が時間と空間の最果てに立っているのを感じた。光の振動が、木々の囁きが、そして遠くから風で運ばれてくる鳥たちのさえずりが聞こえていた。
**164** 私は突然理解した。イティコテリの人々が私の過去に興味を示さなかったのは、関心がなかったからというわけではなく、そのように選択した結果だったのだと。彼らにとっては、私は履歴を持たない存在だった。そして、ただの奇妙な存在という以上の何者かとして私が受け入れられるためには、私は履歴を持つわけにはいかなかったのだ。過去の出来事や人間関係は、私の記憶の中でぼやけ始めていた。それは忘れてしまうということとは違って、過去について考えるのをやめてしまったということなのだった。私の過去など、森の中では何の意味も持たないことだったからだ。イティコテリの人たちと同じように、私はただ現在だけに生きるということを学んだ。時間は私の外側にあった。そしてそれは、一瞬の間にしか使えないものなのだった。一旦使ってしまえば、時間はそれ自身の中に沈み込んでいき、心の内側のとらえどころのない一部分になってしまうのだ。
「ずいぶん長い間、やけに静かにしてるのね」リティミが地面に座りながら、そう言った。両膝を立てて、手で膝を抱えると、その上に顎を乗せて、私の方をじっと見た。
「今ここにいることが、どんなに幸せなことかって考えてたの」私は言った。
微笑みながら、リティミは体を前に後ろにとゆっくり揺らした。「ある日、私はいつものように焚き木を集めてるの。なのに、もうあなたは、わたしのそばにいない。それでも私は寂しくないんだ。だって今日の午後、シャボノに着くまでの間に、私たちはオノトで模様を描き合ったり、夕日を追って飛ぶコンゴウインコの群れを眺めたりして、楽しい時間を過ごすんだから」

☆続きはこちらです。
[フロリンダ・ドナー「シャボノ」第14回]

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☆第1回〜第12回はこちらです。
[第1回] | [第2回] | [第3回] | [第4回] | [第5回] | [第6回] | [第7回] | [第8回] | [第9回] | [第10回] | [第11回] | [第12回]

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